第45章 まぶしい闇
「でぇもぉ、」
そんな緩い声と緩い動きで、彼女はトトトッと後ずさる。
「え、」
「今はゴクドーもんのトガですから、ヒヨコちゃんとはまた今度!」
踏み出そうとしたところ、目の前には大きな大きな壁がドシンと出来上がった。近寄れなくなっちゃった。
「ゴクドーは気が短いから、怒られちゃうんです。」
「ちょ、ちょっと!」
ヒミコちゃんの声は、聞こえなくなった。
「へ、ぁは…」
へたりとしゃがみこんで、深呼吸をした。
少しだけ震えている手を抑えつつ、使った血液を手元に吸収した。貧血状態が少しずつ戻っていく。
ブラド先生に教わった。
出してばっかだからすぐに貧血になるんだって。だから元に戻すことを学んでおけって。
全ての血液を回収した後、ゆっくり立ち上がって壁を叩く。まずはここから出ないことには、先に進めない。
手のひらにじわじわと滲む血液を見つめ、グッと握りしめる。
いろいろ、やってみるしかない。
まずは剣を作り、思いっきり壁を切ってみた。
少しだけ傷がついたけど、それだけだった。
と唇をむにむにしながら考える。
私は圧倒的に力がない。
パワー系の個性との相性が悪い。現に今、この状況がめちゃくちゃキツい。もし閉じ込められたり、硬い何かで防御されたりしたら、私は手も足も出なくなっちゃう。
どうすれば、もっと個性を上手く使えるだろう。
手のひらから流れる血液を固めたり液体にしたりしてみる。暗い空間で私の血液は、光を集めてキラリと光っていた。
手のひらをぺたりと壁にくっつけ、壁全体に血液を這わす。
「やぁっ!」
一気に放出して、結晶化をする。
パキりと音を立てて壁が赤色に染まった。
高圧洗浄機、をイメージしたんだけれど、どうだろうか。
血の結晶化を解き、手元に吸収する。
壁を見ると、ところどころにヒビと穴があった。
「や、やったー!!」
ぴょこぴょこ飛び跳ねて喜んでしまった。
苦手の克服、って感じだった。
「えい!」
壁に回し蹴りをひとつ。
まだ壁は壊れない。
「もういっかい!」
まだ、壁は壊れない。
「まだまだ…ワックスオン!ワックスオフ!キック!」
この間見た映画のセリフに合わせて3連撃。
「次で、ラスト!」
その、瞬間だった。
轟音で、辺りが埋め尽くされたのは。