第45章 まぶしい闇
3人を目の前にしておきながら全く引き下がらない先輩の姿に、私は少しの間見とれていた。
緊迫した空気に肌はビリビリ痺れて。
でも、心はそれと反対でゆっくり凪いでいく。
「ファットガム!俺なら1人で3人完封できる!」
「…あ、」
先輩の言葉に息が漏れて、それと同時に胸がストンと晴れた。
そっか。
さっきの先輩の言葉は、私を勇気づけるためじゃない。
先輩自身の決意だ。
先輩自身を、勇気づけるための言葉だ。
「行くぞ、あの扉や」
「ファット!」
「…早く行こう」
立ち止まろうとする鋭児郎くんの背をぐいと押すと、彼は困ったような顔で振り向いた。
「あ、アマネっ!先輩がっ!」
「少しでも、前に進まなきゃダメなの!」
後ろからは激しい戦闘の音が聞こえてくる。
「皆さん!!」
声に振り向けば、カッコよくて憧れの先輩の後ろ姿が見えた。
「ミリオを頼むよ!」
私は誰にも見えないくらい小さく頷いて、その場を駆け出した。
先輩が、たくさんのヒーローが繋げてくれた道へ。
「ファット!それにアマネも!先輩1人残すなんて何考えてんすか!!」
「先輩は…大丈夫、だよ!私、先輩を信じるって決めた!」
「ひよこちゃん…。」
立ち止まることは、先輩への裏切りだって、思うから。
「よー言ったアマネちゃん!背中預けたら信じて任せるのが男の筋やで!」
ばしんと背中を叩かれた。
見上げれば、ファットさんがにまっと笑っていた。私は小さく、頷き返す。
「せ、先輩なら大丈夫だぜ!」
「逆に流されやすい人っぽい」
「心配だが信じるしかねぇ!」
「おー!!」
走る足はそのままに。
私たちはもう一度決意を固めて走り出す。
この先にきっと居るはずだ。助けを求めるその子が居るはずだ。
凪いだ心に力を込めて奮い立たせる。
じわじわと暖かくなっていく胸を撫でながら、私は必死になってヒーロー達に着いていく。
私にも出来ることが、きっとあるはず___
「アマネちゃんっ!!」
「え?」
「避けろ!アマネ!!」
だ、よね?
気がつくと前が見えなくなっていた。
壁に飲み込まれてるって気がついたのはその少し後で。
身体はそんな急に動くわけなくて。
私はただ誰かに突き飛ばされたことだけを感じながら、ゴロゴロと転がった。