第45章 まぶしい闇
「ひゃっ」
小さな声が漏れた。
小さくて、かすれてて、弱弱しい、悲鳴。
広間に着地した後、そんな悲鳴が恥ずかしくなって口をおさえた。
「ますます目的から遠のいたぞ。いいようにやられてるじゃねえか!!」
「安藤さん」
誰かの大きな声が響いた後、悲鳴に気づいた環先輩が私の名前を呼んだ。
ヒーロー名、ではなく。
「俺、やってやる。だから君も、」
「先輩?」
「知っていて欲しかったんだ。君に。」
「どうして?」
先輩は前を向いていた。
先輩の顔は、ゆらゆら揺れて、迷って、震えて恐れて。それでもなお前を向いていた。
「せんぱっ」
「おいおいおいおい、空から国家権力が……」
かけた言葉がつんのめって喉で止まる。砂煙の中からの声のせいだ。
立ち上った砂煙の向こうに見えた3つの影の、どれかの声だ。
「不思議なこともあるもんだ。」
3つの影が、はっきり見える。
金髪・細身で四白眼の男と、袋で顔を覆いひもで首元に縛った案山子のような風貌の男。それから彫りの深い顔にスキンヘッドの男。
顔面の力が色んな意味で高すぎる3人組だった。
全員、リストで見た顔。
「よっぽど全面戦争したいらしいな…!さすがにそろそろプロの力見せつけ」
ファットさんは睨み殺しでもしそうな眼つきで3人を見据えていたけど、それは静かに制された。
制したのは、先輩。
「その“プロの力”は目的のために…!こんな時間稼ぎ要員、」
その3人組に向かっていた鋭い目つきは、見たことないくらいだった。
「俺一人で充分だ。」
かっこいいいい!!!!
脳内で叫んだ。口に出そうだったのを必死に抑えた。
迷いとか不安とか恐れとか恥ずかしさとか一瞬全部ふっとんで、かっこいいでいっぱいになった。
「何言ってんスか!?協力しましょう!」
「そうだ協力しろ。全員殺ってやる。」
周りの言葉と音が入ってくるのに、少しだけ時間がかかった。
止めるべき?
そっか、でも、本当にそうなの?
考えている間も、周りは動く。
相澤先生が動いてる。ファットさんも動いてる。
飛び出して行った環先輩も、貝になったりタコになったり、カニになったり。
『俺、やってやる。』
その言葉が頭を回る。
先輩はその言葉で勇気づけてくれた。
でもその言葉の意味は、それだけじゃないはずだ。