第44章 何者
共有スペースのソファによっこらと座り、出久くんを待つ。彼はなんだか、部屋から持ってきたいものがあるみたいで。
「ひよこちゃん!ごめんごめん。」
「ううん。全然。あっ、それって…」
「うん!」
彼の手の中には、少し焦げっぽい大学ノート。表紙には、『将来の為のヒーロー分析』って、書いてある。
「出久くんの大切なノートだ。」
「うん。ヒーローの話とか、したくってさ。」
にかっと、ちょっと困ったみたいに笑う顔が、懐かしくて大好きだ。
「うん、最近そういう話してないもんね。」
それからふたりで、最近好きなヒーローの話をした。最近ロックロックさんがかっこいいだとか、九州にすごいヒーローがいるだとか。ヒーローのファンとしてのおしゃべり。
こんな話をするの、久しぶりだった。中学校の頃に戻ったみたいで懐かしくて、ほっとした。
「ねぇひよこちゃん。ひよこちゃんは、どんなヒーローになりたい?」
「私?」
ノートに向いていた出久くんの目が、私をとらえた。
「僕は…困っている人を救けるヒーローになりたいんだ。」
「うん、知ってる。」
「ひよこちゃんは?」
その顔は少し、不安そうに見えた。
「私は…」
一度目をつむって考えた。
私のなりたいヒーローは。
思い浮かんだのはいつかの優しい笑顔。
それから、へっぴり腰で、頼りない背中。
「ここにいてもいいよって……誰かの居場所を守れるヒーロー、かな。」
「ここに、いても…?」
「ここにいてもいいよって、大丈夫だよって、伝えられたらいいなって思う。それから、幸せを一緒に探すの。」
私がゆっくりこう言うと、出久くんは目を大きく開いて、それからゆっくり笑顔になった。
「ひよこちゃんらしいや。」
「そうかな…」
私の頭の中にあったのは、ずっと大切な、あのヒーローのこと。
「私の大切なヒーローは、勝った、って感じじゃない。完全に救ってもらったって、わけでもない。ケガしたし。でもね、」
出久くんの目を見て言えば、誰のこと言ってるか、分かるかな。
「私、助けてもらってもいい人間なんだって、思えたのが嬉しかった。ここにいてもいいよって、言ってくれたのがうれしくて。」
精一杯のありがとうを込めて、言った。
伝わったかなと彼の瞳を見てみたら、
その瞳からは、涙がぽろぽろこぼれていた。