第44章 何者
Side 緑谷出久
「あ、あれ、ひどいこと、言っちゃった?ご、ごめ」
「違っ!違くて…」
ひよこちゃんを元気付けるためだったのにまた、溢れてしまった。
ひよこちゃんの言葉で、エリちゃんのこと思い出しちゃったんだ。
オールマイトのことも、エリちゃんのことも。
溢れてくる。
ひよこちゃんが、滲んで見える。
ひよこちゃんの前で泣いたのは、あの時ぶりだ。
「…ごめん、おかしいな。ヒーローは、泣かないのに。」
「ヒーローでも、泣いても、いいのに。」
だめなんだ。
だってヒーローだから。
僕は目をごしごし手で拭って、大きく首を振った。ひよこちゃんはいいのにって言うけれど。
違うんだ。
そうやって大きく首を振る。
「…ヒーローは、強いの?」
「うん。ヒーローはどんな人でも笑顔で助けるんだ。」
「そっか…そうだよね。」
そうなりたいというヒーローが、僕にははっきり居る。
大好きなあのヒーローは、どれだけ調べても、泣いているところを見たことがないから。
しばらく目を擦っていたら、ひよこちゃんの、いつもの優しい声が聞こえた。
「出久くん、口、開けてみて。」
「え?」
なんでだろうと顔を上げると、ひよこちゃんは一足先に口をあーっと開けていた。
僕もつられてあーっと、口を開けた。
すると驚いたことに、ずっと止まらなかった涙がすうっと引っ込んでいった。
心が、落ち着いていく。
心から、悲しいことが剥がれていくような感じがする。
「あ、れ?」
「すごいよね。教えてもらったんだ。」
ひよこちゃんは、笑顔で言う。
「私、泣き虫の先輩だからね。」
その声は、あったかくて。
「いろんなこと、あったんだね。全部を分からなくて、ごめんね。」
「ううん、そんな。」
「ヒーローの笑顔も大好きだけど、“出久くん”が笑えてるのが一番嬉しいな。」
「……ひよこちゃん」
オールマイトのこともインターンの事も知っているひよこちゃんになら、相談してもいいのかなと思ったけれど、やめた。
僕もひよこちゃんに、笑っていて欲しいから。
「エリちゃん、笑ってくれると良いね。」
「うん…!」
そう言うひよこちゃんの笑顔は、日向みたいだ。
「エリちゃんに会ったときのために、笑顔の練習しようよ。」
「うん!」
ふたりでやった笑顔の練習は、すごく楽しかった。