第44章 何者
そんな眠れない夜の何回か目の日、私がいつも肌身離さず握っていたケータイが、ブルりと震えた。
メールが届いた。
内容は、決行日のことだ。
エリちゃん救出の、決行日。
寮の玄関で星を眺めながらケータイを閉じると、共有スペースからひたひたと音が聞こえた。
玄関からひょっこり顔を出してみると、みんなはケータイを出し合ってメールを確認していた。
「あれっ、ひよこちゃん、起きてたの?」
「うん…」
「安藤も来たか?」
「うん。」
具体的な日付がメールにのっていて、私の心臓はドクンと跳ね上がる。
みんなは神妙な顔で、何もしゃべらなくなってしまった。それが私は、怖くって。
「…がん、ばろうね。」
「…うん。」
「おう…がんばろーぜ!」
「そうね、頑張るしかないわ。」
みんなで口々に頑張ろうって言って、解散した。
みんなが解散した後も私はその場に残った。
大きなことが、現実味を帯びて、どんどん近づいている。
気づいてなかったけれど私、すごく震えてるみたいだった。すごく、手が冷たいし、なにより一人が怖い。
不眠症が、ますますひどくなる。
耐えられなくなった私はしゃがみ込んで少し、深呼吸した。
はやく、夜が明けてほしい。
お願いだからはやく朝になってほしい。
はやく、普通に、眠りたい。
眠れないときはいつも思う。
今日は特にひどかった。
「…がんばら、なくっちゃ。」
ちょっとだけ、涙もにじんだ。
何がそんなにこわいのか、わからない。わからないのに。
丸まった背中に、なにか暖かいものが触れた。
「ひよこちゃん。」
「出久く、ん?」
「そんなに眠れてないの?」
横を向けば、覗き込む優しい瞳が見えた。
「部屋に、戻ったんじゃ、」
「トイレ、行ってたんだ。」
私は心配させるまいとすっくと立ちあがり、彼を見た。
「大丈夫。心配かけて、ごめんね。」
「…」
一緒に立ち上がった彼は困ったような笑顔をして、それから口を開いた。
「実は、僕も眠れないんだ。ね、すこしだけお話しない?」
「出久くんも、眠れないの?」
その笑顔は、なんだか懐かしくて。
まるで中学校の頃の出久くんと話しているみたいだった。