第44章 何者
Side 切島鋭児郎
安藤の返事は、予想外だった。
こんな風に話す気はなかった。でも口から出てしまって。
正直、幻滅されるとまで思ってた。
慰められるのも、予想してた。
でも安藤は、違った。
「にあってる…のか?」
「うん。すごく。私、赤色が似合うのも、ヒーロー的には強みだと思うんだ。主人公の色って、いっつも赤だし。」
俺の瞳を覗き込みながら安藤は言った。
そっか、俺って目も赤いから。
「さっき思ったの。鋭児郎くんは夜も似合うなぁって。黒もいいなって。……でもやっぱり、太陽の下がすごく似合うなって。赤色も好きだなって。…うーん、やっぱどっちも好き。」
安藤は、あどけなくて幼い、ただただやさしい笑顔をしてた。
「赤だと、どこで会ってもすぐわかる。鋭児郎くんだって。それがね、すごくうれしい。」
安藤の笑顔は、ここにいてもいいと教えてくれるみたいで。
「赤色が似合うのも、黒色が似合うのも。私は好き。」
安藤の“好き”はとても優しい。
安藤の言葉はいつも、包み込むみたいに優しい。
「…俺は、中学の時の自分が嫌いだ。声、かけられなかったときのことずっと…後悔してる。」
「後悔……私も、あるよ。……後悔って、自分が嫌だって思うことって、死にたくなるほど苦しい。」
彼女の後悔を、俺は知っている。
後悔という言葉では軽すぎるほどの彼女の傷を、俺は知っている。
「そんなのに向き合ってるのってすごいと思う。後悔を忘れないのって、自分の弱さを知ってるのって…凄いよ。漢だ。」
安藤は拳を俺の胸に当てて言う。
「だからさ、応援してる。」
彼女がニカッと笑う。
「がんばろうぜ。ガッツだ、烈怒頼雄斗!」
とんと当たった拳から、じわじわと熱が広がる。
俺やっぱ安藤のこと、好きだ。
いつもそうだ。
安藤はいつも、俺に必要な言葉をくれる。
「……頑張るよ。」
「へへ。」
狭くなっていた俺の視界に、今ようやく、夜空が入った。
今俺の見ている夜空は、安藤と同じなんだろうか。同じ様に、綺麗だと思っているのだろうか。
「星、きれいだな。」
「うん。でも、眠れない。」
「…眠れないのも悪くない。」
「うん。はじめて思った。悪く、ないんだね。」
安藤が、夜の俺を見つけてくれてよかった。
俺は隣に座っている安藤に少しだけ近づいた。