第44章 何者
別室に移動した私達は、出久くんたちからどんなことがあったか聞いた。
話したのは、出久くんと通形先輩。
その娘さん、“エリちゃん”と出会ったこと。
その子は酷く震えていたこと。
その子に、「行かないで」と、言われたこと。
その時手を、離してしまったこと。
「そうかそんなことが…。悔しいな…」
「デクくん…」
話すふたりの深刻な顔は、胸をぎゅっと締め付けた。
太陽みたいだった通形先輩も、しゅんと下を向いて。出久くんは時折私の顔を見つめては泣きそうな顔をした。
私が言えることは、無い。慰めとか、そういうの。だって、インターンで、自分で、いっぱいいっぱいで、彼を見ていなかったんだもの。
けど、言いたい。
「あ…」
出久くんの差し出してくれた手で、確かにあの時私は、ここに居てもいいって、思えたってこと。
それにどれだけ、救われたのか。
「出久くん、私は、」
声をあげると、それと同時にエレベーターが止まる音がチンとなり、言葉が遮られた。
「…通夜でもしてんのか。」
「先生!」
「あ、学外ではイレイザーヘッドで通せ。」
エレベーターから出てきたのは、相澤先生だった。
「いやァ、しかし…今日は君たちのインターン中止を提言する予定だったんだがなァ…。」
胸がドキンと跳ね上がった。
「ええ!?今更なんで!!」
鋭児郎くんはガーッと叫んだけれど、私はどうして中止なのか、なんとなくわかった。
“あの人たち”だ。
「連合が関わってくる可能性があると聞かされたろ。話は変わってくる。」
そういう先生と一瞬目が合って、私は思わず下を向いた。
「ただなァ…緑谷…お前はまだ俺の信頼を取り戻せていないんだよ。残念なことに、ここで止めたらお前はまた飛び出してしまうと俺は確信してしまった。」
先生は出久くんの前に座って目を覗き込みながら話す。
「俺が見ておく。するなら正規の活躍をしよう、緑谷。」
先生の言葉は優しい。
「ミリオ…顔を上げてくれ。」
「私知ってるの、ねぇ通形、後悔して落ち込んでてもね、仕方ないんだよ!知ってた?」
「…ああ。」
「気休めを言う。掴み損ねたその手はエリちゃんにとって必ずしも絶望だったとは限らない。前向いていこう。」
「はい!!」
皆の言葉は優しくて、私もそんなふうになれたら、って思った。