第44章 何者
『弔が決めたことなら、私は喜んで受け入れよう。』
『知ってるかい?個性は、』
『どれだけ拒んでも、受け渡すことが出来るんだよ。』
あの声が、頭に響いている。
吐きそうなままの私は、吐きそうなまま話を聞いていた。
その銃弾が、件の“しえはっさいかい”からのものでは無いかということ、若頭は治崎という人だということ、治崎さんの“個性”は対象を分解、修復することができること、治崎さんには娘さんがいること。
治崎さんが、娘さんの身体を、銃弾にして売り捌いていたんじゃないか、ってこと、ヒーロー達は話してた。
「…へぇ?」
現実味はないし信じられないし、でも吐き気はするし。気持ち悪い気持ちは爆発するみたいに大きくなるし。
なんか、もう、いろいろ。
正面に座ってた2人の大きな声も、サー・ナイトアイの苦しげな「ダメだ」も。
頭に入ることはなかった。
ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃで。
そんなぐちゃぐちゃな感じの頭のままで、この会合は終わった。
「安藤?」
「あ、うんと…」
会合が終わっても立ち上がらない私に、鋭児郎くんは声をかけてくれた。
「頭が、パンクしそうで。これがインターン、これが社会…これがヒーローかぁって、おもって。…ちょっと、立ち上がれなかった。」
「…そっか。」
ほっぺをぐにぐに触って、私はニンマリ笑顔を作った。
「ほら。」
「ん…」
鋭児郎くんの差し出してくれた手を掴んでなんとか立ち上がれた。つないだ手はすぐ、離れた。
「ごめんね、ありがとう。」
「いや、いいんだよ。俺だってさ…」
「切島くん、安藤さん。あっちにみんな集まってるみたいだし、行こう。」
環先輩がそう言っている。
いろいろぐちゃぐちゃしちゃった私は、それを隠すように先輩に駆け寄って、またニンマリ笑った。
「…安藤さん、笑顔が変だ。」
「えぇ、」
「それ、やめた方がいい。」
いつもと変わらない先輩は、私の顔を見ることなくすたすた前を行く。
「俺もこんなの初めてだ。どうしていいかわからない。」
「先輩も…」
「みんな、そうだろ。みんなわかんないでやってるさ。ただ、みんなで幸せになれるように頑張るだけ。」
いつも通りの先輩は、簡単にそんなふうに言って前を行った。やっぱり先輩はすごいな、なんて思ったら少し、泣きそうになった。