第44章 何者
「八斎會は以前、認可されていない薬物の捌きをシノギの一つにしていた疑いがあります。そこで、その道に詳しいヒーローに協力を要請しました。」
「昔はゴリゴリにそういうんブッ潰しとりました!」
なるほど、“はっさいかい”てとこは、違法な薬物とか売ってたのか。シノギって、なんだかわかんないけど。そっか、ファットさんが“その道”に詳しいヒーロー、か。
そうやって頭の中を一つ一つ整理していく。そうしないと、理解できなくて。
「そんで先日の烈怒頼雄斗とあまねちゃんのデビュー戦!今までに見たことない種類のモンが環に打ち込まれた!」
あの日のことだ。
私が怒られた、あの日。
「“個性”を壊す“クスリ”」
ファットさんの手の中にあった飴が粉々になるのと同時に、もったいないなんて思ったのと同時に、私ははっと思いついた。
個性を、壊す。
その言葉を反芻しながら、私はようやくカエルから顔をあげた。
ヒーロー達はみんなその言葉にザワついて、不安や嫌悪の声をあげる。私は、何も、言えなかった。
なんか、変な気持ちが心の中にある。
相澤先生が“個性を壊す”の説明をしてる間も、ファットさんがその銃弾について説明してる間にも、私に生まれたこの気持ち悪い感情が心に広がって。
「個性、を壊す…クスリ…」
「せやひよこちゃん!話ついてきてるか?」
「あっ!…いやえっと、」
「今はよー聞いとき、大事な話やで。」
心の中の気持ち悪い感情を、誰にも漏らさないように口を噤んだ。
ファットさんは真面目な顔で私を覗き込んでくる。心の中を悟られないように、眉毛にぎゅっと力を込めた。
「はい、ごめんなさい。」
「よぉし。んで、その環に打ち込まれた銃弾やけどな、調べた結果ムッチャ気色悪いモンが出てきた…。」
ファットさんの深刻で本気の顔に、私はキュッと下唇を噛んだ。
「人の血ィや細胞が入っとった。」
血?
細胞?
全然、わからない。
なんだそれ。なんだ、それ。
『喜べよ。お前に新しい個性をやる。先生から、直々にな。』
『個性の、譲渡だよ。』
フラッシュバックしたその言葉は、今は全然関係ないのに。ずっと、忘れようとしていたものなのに。
吐きそうに、なった。