第43章 疾走するケダモノ
先輩と別れて、急に淋しくなった。
さっき、先輩の前で大泣きしてしまって、すんごく恥ずかしかった、と小さく反省する。
だって、なんか止められなくって。
溢れちゃって。
寮の大きな扉の前で、私はふっと立ち止まって下を向いた。
誰かに会いたいと、切に思った。
話がしたい、と思った。
一人で居るのが、無性に怖くって。
誰か、起きてないかな。
なんて。
それから、腕に力を込めて扉を開けた。
ちょっぴりだけ、期待して。
そしたら、
「あっ」
いた。
真っ赤な髪の彼が。
さっきまで、頭の中にいた彼が。
ソファに座って腕を組んで、ぐっすり、寝ちゃってる。
「え…えい、じろーくん?」
なんでだろ、どうしているんだろう。
そんなのが頭の中が飛び回って。
胸がなんだか、チリッとした。
チリって、なんか。熱くて。
「あのぅ…風邪ひいちゃ…」
つんつんしても、全然起きない。
肩をつんつんしても。
頭をつんつんしても。
全然起きない。
「……あの、ね、鋭児郎くん。今日、助けてくれて…ありがとう。」
眠ったままの彼に、私はゆっくり、話し始めた。
つんつん、しながら。
「嬉しかった…けど、もっと頑張らなきゃなって、なった。…鋭児郎くんは?」
鋭児郎くんがこっくりこっくりするのが楽しくて、頷いてくれてるみたいで面白くて、私はふひひと笑った。
「私ね、鋭児郎くんの、そーやっておろしてる髪も、かっこいいって、思う。」
お昼の彼より丸っこくて。ライオットじゃないって思うと、なんだかホッとした。
「そのままの君も、好きだな。」
ヒーローの“アマネ”は、ヒーローである“烈怒頼雄斗”は、前に進まなきゃいけない。
でもその中に、ただの私や、ただの“鋭児郎くん”が居て。好きなものを食べたら美味しくて、遊ぶのが楽しくて。そんな、彼らが居て。
そんな彼らは居なくならないで、そこにいて欲しいって、思ってしまう。
そんな不埒なことを考えながら、つんつんして。
「…ん、だ…。あん、ど…?」
「あ、起きた。」
つんつんしてたら、起きた。
寝起きの彼は、寝惚けていて、
「…ゆめ、か?」
「ううん。」
「ゆ、め…か。」
「ちがっ、」
あんどーって、手を伸ばしたかと思えば。
寝惚けた彼は、私の手をギューっと握った。