第43章 疾走するケダモノ
「俺と、似てるよ。」
今まで口にした事がない言葉を、口にした。
なんでこんなこと言ったんだ。
こんなこと言ったら、安藤さん逆に泣くかもしれない。不本意だって。それで泣かれたら俺も泣く。もうどう転んでも共倒れだ。
「先輩と、同じ…。」
しかし、俺の予想と反し、その言葉で安藤さんの涙はピタリと止まった。
泣いていた安藤さんは、声が届くとふっと前をむいた。大きな目を、さらに大きくして。
そして、
「嬉しい…。」
と、笑ったのだ。
「んなっ、」
「先輩と似てる…公認。んふふ…へへ…嬉しい。」
「なん、」
先ほどまで零れていた涙で濡れた瞳が、こちらに向く。澄み切った星空のような、真っ黒の瞳が。
ただ真っ直ぐ、嬉しそうに。
その眇に俺は、胸を抑えた。
「ありがとう、ございます。先輩。」
「…いや、」
「ありがとうございます。」
「…やっぱり奇特だ。安藤さんは。」
「きと?」
本当に。
おかしなやつだと思う。
真っ赤で腫れぼったい瞳が、俺の隣で嬉しそうに揺れて。それを見る度、胸がじくんじくんと、知らないように揺れるんだから。
少なくとも俺にとっては…少なからず……“特殊”。
「ごめんなさい、急に泣いたりして。…ひっく。」
「急に泣くのはほんとに驚く。」
「…以後、気をつけます。」
夜の帳が完全に降りて、星々が輝く。
静かな夜道なのに、心臓が、うるさい。
「まさか、な。」
なにか、うまれた。
知らない想いが、生まれた?
変な予感が、する。