第43章 疾走するケダモノ
「びっくりしたで、ホンマにもう!」
少し目をいからせたファットさんに、私はしゅんと頭を下げた。
私はまた倒れちゃってて、気がついたら病院で。
先輩と一緒に、ファットさんに連れ戻されて。
それで今、事務所でお説教タイム。
「状況としてはしょうがなかったかもしれん。僕も早く行けれんくて悪かった。後遺症が残るような怪我がなくてホンマに良かったよ。けどっ!けどやでアマネちゃん!!」
びしん、ばしん。鼓膜がまたビリビリする。
大きな声は部屋中に広がる。
「見てて心配になるヒーローには、なっちゃあかんよ。」
思わず顔を上げちゃった。
泣きそうだから、あんまし顔見せたくなかったけど。
「みんなを安心させんといかん。これ重要やで!」
ファットさんは真っ直ぐ、揺らぎなく話してる。
優しい。すんごく。
「僕からはこれだけです。ほれ、たこ焼き食うか?」
「いただぎまず…。」
机の上のたこ焼きを一つ、ファットさんは差し出してくれた。ちょっぴり泣きそうになりながら、私はたこ焼きを受け取る。
「もー、泣かんでええんやで!」
「ないでないでず!はなびずだもん!」
「やっぱ意地っ張りやな!」
鼻が詰まっていて、貰ったたこ焼きはほとんど味がしなかった。でも、胸にじわじわしみた。いっぱい、食べたくなった。
「アマネちゃんめっちゃ食べるやん。美味しいか、そうかそうか!」
「味わかんないです。」
「分からんのかい!」
口いっぱいにたこ焼きを入れて、鋭児郎くんは、先輩は食べたかなって、ふっと思った。
鋭児郎くんはもう先に帰ったらしくて、先輩はいろいろ検査を受けてたから遅くなってまだ残ってる。らしい。
「もうすっかり遅なったな。あまねちゃん、環と一緒に帰ればええわ!」
「んもぐ。」
「いや、めっちゃ食べるやん。」
帰ったら、鋭児郎くんと話をしたいな。
ライオットじゃない鋭児郎くんと、話したいって、そう思った。