第43章 疾走するケダモノ
「おらアァ!!!」
制限ギリギリでやっと、チンピラを吹っ飛ばす。
身体のところどころが切れていたが、知らないふりをする事にした。
「ゲホッああ゛ん!!うわああん来んなァアー!!」
吹っ飛ばしたチンピラはべそべそ泣き出して、さっき刃物を突き出す前の状態に戻った。
「強くなりたかっただけやねん…!頼むよ、逃がしてよ…!!」
「ダメだお前は、」
そこまで言って、はっと振り返る。
そうだ、安藤は。
「アマネはっ」
「……んぅ…」
辺りは凄惨な赤で埋めつくされている。
安藤はその赤色に、沈んでいる。
「大丈夫か!?」
「…ぅ……ん。」
絶対に大丈夫では無い返答に、足はたまらず走り出した。血だまりの血をはじかせながら、安藤へ。
ぐったりとした安藤の黒髪に、血がこびりついている。
「あ、アマネ!」
「……。」
顔色悪く目をつむる安藤を抱き上げて、ひたすらに名前を呼んだ。
「敵に背ぇ見せるとかアホちゃうかー!!!」
「っ!?」
振り返ると、そこにいたチンピラは、その場所から飛び出していた。肘から刃物を出して、弾丸のように。
馬鹿か、俺は!?
そう思った刹那、見覚えのある巨体が目に写る。
「ファットガム!」
「遅なってすまんな!」
とげとげだらけの男の姿は、見る見るうちに脂肪の中へと消えてった。包み込まれて、飲み込まれて。
俺は安藤を抱きかかえながら、その“敵退治”を見ていた。
「敵退治はいかに早く戦意喪失させるかや!!」
「すげぇ……た、たすかりました。」
歓声が聞こえる。
その場にいた人たちの。
やっぱりすげえな、ヒーローは。
「ライオット!アマネちゃんはまた無茶したな!?まったく!」
ファットさんは俺の腕のあたりを眉を顰めて眺めた。
腕の中の安藤の血が俺の腕から滴り落ちたのを感じて、俺はあわてて安藤の顔を覗き込んだ。
長いまつげを揺らして、安藤はゆっくり瞼を上げた。
「……へ、き…」
「意地っ張りか!立ててへんやん!もう、僕アマネちゃん連れてくから、ライオットは他の人達の安全確認しとってな!」
ファットさんは、安藤を俺の腕からヒョイと持ち上げた。
それから少しカッコイイ顔で、
「助かったんはこっちやで。お前はすごいヒーローになるよ。」
そう、言った。