第43章 疾走するケダモノ
Side 切島鋭児郎
「わっ…わかります!その気持ちすっごく!」
安藤は、泣きべそをかいているチンピラの手を両手で包み、そんな事を言った。
俺の脇から急に飛び出したかと思うと、そんな事を言う。
「ヒーローに…わかるわけ、ないやろっ」
「いいえっ、分かるんです!強くなりたい気持ち!」
「ええっ」
「強くなれないと、苦しくて、」
「あ、え、」
「弱いままじゃ、ダメだなって思うんです。」
「あぁ、うん。」
チンピラは少し困惑気味に安藤を見ていた。
こんなにごり押すヒーロー、多分俺でも困惑する。
安藤が嘘をついていないこと、安藤の気持ちが本当であることはわかる。
こういうの、安藤らしいというか。
あ、これからは、“アマネらしさ”になるのか。
立てますか?、と言って安藤はチンピラを立たせる。強く強く握られた手は、離してくれん?、と言われれば呆気なく解けた。
「…オレな、アニキと居ると、強くなれるんや。」
「…そう、だったんですね。私も、一緒に居ると強くなれる人、います。」
ヒーローアマネは、真剣な瞳でチンピラを貫くように見つめ続ける。真剣に、一言も零さないように、彼の話を聞いている。
「アニキらと居るとな、力を貰えるんや。」
「…そうなんですね。」
「ほら、これや、」
「…へ?」
「え」
チンピラは、おもむろにスーツの袖の下から“何か”を取り出した。
安藤と俺は、間の抜けた声しか出なかった。
あまりにも、急で。
その“何か”を、彼はまっすぐ“彼の首筋”へと持っていく。
カシュっ
乾いた金属が擦れるような、不穏な音が、響く。
「あ、あの」
「あぁああぁ!」
「何してんだ!?何打った!?オイ!大丈夫かよ!?」
思わず男の肩を掴んだ。
心臓が頭まで登りきって叫び出す。
とても、やばい。
すんごく、やべえ。
安藤がビクリと肩を震わせているのが目の端に写ると、その心臓達は更に早く、さらに激しく悲鳴をあげる。
「あ…」
守らなきゃ。
安藤を、絶対に、
チンピラに一番近い場所に居た安藤の手を、ひく。
ひいて、俺の
ギュアっ!!
刹那、チンピラの身体から刃物が突き出た。
雨のように降り注ぐ刃物を硬化で防いでいると、刃物が、俺のでは無い血液で光っているのが、見えた。