第43章 疾走するケダモノ
人混みをかき分けながら走るのは至難の業で、私は“個性”で足場を高くして、近くのビルの屋上に飛び乗って駆けた。
自分の血固めてを足場にした、っていうわけで。
自分が乗っても大丈夫なくらいの強度なんだな、こんな使い方あるのか、って自分で思っていた。
それくらい、考えるより先に動いていたってことだ。
ビルに沿って走るチンピラを見つけて私は思わず走りながら飛び降りた。
私の走っていた勢いは消えてない。
弾丸みたいに、
落ちて、
墜ちて。
「逃げないでぇえええ!」
「どっから来てんだよおおお!」
急に人が頭上から降ってきたら、普通驚く。
チンピラはそんな普通なリアクションを取りつつも、私のすてみタックルを避けた。
「えっ、ひっ、ひゃああ!!」
「わっ、アマネぇえ!?」
私の勢いは止まるところを知らず、
見事ゴミ捨て場に墜落した私はそのままころころ前転して
曲がり角で、壁にどかっとぶつかった。
「いだー!!」
骨は、多分折れてない。
ヒビも多分。
ビルって言っても全然高くなかったし。
だってゴミ捨て場に落ちたんだもん。大丈夫、多分。
かっこつけるんじゃなかった、とひっくり返りながら後悔した。
「俺は追いつめる!この先は行き止まりだ!」
ってかっこいい言葉、さっきチラリと聞こえた気がする。
立ち上がって彼らが走っていった方向をむく。
頭がぐわんぐわんしてるのも、鼻かなにか熱いものが流れているのも、気の所為だってことにした。
結構近くにふたりの姿が見えた。
熱いそれを拭って、急いで駆け寄る。
「あ…アマネも、来たぞっ!!」
鋭児郎くんが殴ってもうほとんど終わりな感じだったけど、一応ヒーローらしいかっこいい台詞を言おうとした。
結果、カッコ悪かった。
「あ、アマネ…鼻血…」
「そっ、それは置いといて!」
もう一回鼻の下を拭ってから、目の前で項垂れる彼を見た。
彼は、泣いていた。
「…あの?」
「泣いてる?」
彼からこぼれる大きな嗚咽に心が揺れた。
「…えっと…どうして…」
「ズルやで…。だって怖いやん…」
「こ、わい…?」
「強く…なりたかったんや…」
彼からこぼれる弱音に、心が揺れた。
心がズキンと傷んだのも、気の所為だってことにすべきなのか、考えても分からなかった。