第43章 疾走するケダモノ
誰が、とか。何処から、とか。なんで、とか。
思う暇もなく、考える余裕もなく。
私はただ先輩に駆け寄りしゃがみ込んだ。
「せんぱ」
「アニキ逃げろォ!!」
もう一発くる、なんてこと、考える頭もあるわけなくて。
その声にドンっと心臓が鳴って。
私は振り返り、思わず腕で顔を覆った。
皮膚の表面近くの血が、冷たくなっていた。
「安藤っ!!!」
BLAM!
音がした。
来たる衝撃に目を瞑っていたら、腕の向こうから声がした。さっきのとはまるで違う衝撃音と一緒に。
「サンイーター!レッドライオット!アマネ!」
目を開くと、
目の前には赤。
赤いヒーローがいた。
「え…い…っ」
「捕えます!!」
赤いヒーローは身を堅くし、私に背を向けたまま叫んだ。
さっき冷たくなっていた血がなんでか少し、頬に集まった。
「思ったより痛くない…!」
「うわぁっ」
「先輩!!大丈夫なんすか!?かっけえ!!」
むくりと起き上がった先輩に、思わずヘンテコな声をあげた。
そしてすぐに、“彼”と目を合わせる。
「追っかけるぞ!アマネ!」
「…うんっ、行こう!レッド、ライオット…!」
その名前を口にしたら、胸の奥の真っ暗いところが、ちりりと火花をあげた。
考えるより先に、立ち上がって。
考えるより先に、足が動いて。
考えるより先に、背を追って。
「まて早まんな!」
その声が届くよりも、先に。