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夢を叶える方法【ヒロアカ】

第42章 ここは社会、私は子ども




帰り道。行きとは全く反対で、私は天にも登る様な心地で、筋肉痛で歪むほど頬を緩ませて帰路を進めていた。


「明日から…明日からだよ!鋭児郎くん!わ…わぁ!」
「そうだぜ!明日!明日から!」


興奮しきったふたりの影は、夕陽の中でぴょこぴょこ弾む。

それを静かに、呆れと感嘆の混じった顔で見ていた影が、ひとつ。


「君らはどうしてそうも元気なんだ…。その若さ……俺にはもう無いものだ。」


若さ、なんて見当違いの言葉が耳に入って、私は思わず振り返る。


「わかさ?」

私は影をひとつ移動させて、先輩の隣に立って下を向く顔を見上た。


「若さは若さだよ、安藤さん。」
「先輩まだ若いです。」
「君らには若さの壁を感じる。」
「えぇ…。」


シワひとつないみずみずしい顔でそう言っている。おじいちゃんに聞かせたら怒るだろうなと思った。


「私、先輩と性格似てるって思たんです。」
「は」
「だから同じ経験をして、先輩みたいになりたいなって。」

私が言葉をまくし立てて言うと、先輩は、は、しか言わなくなってしまった。


「連れてきてくれてありがとうございました。」
「…奇特だ。…きとく。」
「きと?」

覗き込んでも、先輩の顔は高い鼻以外全部、長い前髪で隠れてしまって見えなくなった。


「おっ、俺も俺もっ!今日はあざっしたセンパイっ!」
「わっ」
「おっと、わ、わりぃな!大丈夫か?安藤」


鋭児郎くんは、いやに慌てて私と先輩の間に飛び込んできた。

影がみっつ、同じになった。


「…呼び名も、明日から違うものだからな。」


先輩のぼやきを頭で理解するまで数秒。

それから私たちは再びわぁっと歓声をあげた。


「鋭児郎くんはあれだよね、あれっ!」
「安藤はあれだな!あれっ!!」


「レッドライオット!!」
「あまね!!」


言葉に出して、彼を呼んだ。


切島鋭児郎くんじゃない。
ヒーローを呼んだ。

“レッドライオット”を呼んだ。


鋭児郎くんの頬が赤くなってるのが見えた。多分、夕陽のせいじゃない。私のも同じように見えているんだろうなと思う。


学校じゃ、ないんだなって思った。

ここは、今までの場所とは違う。ここは社会で大人の世界。

ここで私は、安藤ひよこじゃなくなるんだなって。
ヒーローなんだって。


“あまね”


なんだって。


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