第42章 ここは社会、私は子ども
初めて見たファットガムさんは、机一面にたこ焼きを広げてたこ焼きを頬張っていた。
大きくて、丸くて…それでいて大きい。
オレンジ色で、それでいて、大きい。
たこ焼き美味しそうでそれでいて、大きい。
「環が人を連れてくるとはなァ!切島くん、体育祭見たよ!元気がある子は歓迎やで!」
大きな声の関西弁は、途切れることなくつらつら続く。
初めて聞くファットガムさんの声に、私の鼓膜はビリビリしていた。
行き場を失っていた手を、胸の前でぎゅっと握った。
鋭児郎くんは、歓迎されている。
「職場体験に指名してくれたフォースカインドさんもそう言ってくれました。威勢の良い奴がいると事務所の士気が上がるって…。」
鋭児郎くんの真っ直ぐな声に、私は思わず顔をあげた。
「でも…それだけっす…!」
「それ、だけ…。」
「俺…それだけじゃ嫌なんです。紅頼雄斗みたいにちゃんと守れるヒーローに…変わりたくて…!!」
真っ直ぐ言える鋭児郎くんがカッコよくて、緊張している私が恥ずかしくて下を向いた。
「だから無理言って環先輩にここ紹介してもらったんス。」
彼を見上げると、どこまでも真っ直ぐな瞳があった。
「誰かのピンチを見過ごす情けない奴には、もうなりたくないんス。」
こんなふうに、私は救けられたんだって。
カッコいいなって、思った。
こんなふうにならなきゃなって、思った。
見上げた頬が熱くなった。
勇気が溢れて、眉に力がはいった。
「漢らしなァ切島くん。期待してるで!」
「へへっ。ありがとうございます!」
じゃあ、私は。
「で、安藤さんやけどな。」
「はっ、はい!」
「…環はどえらい子連れてきたなぁ。」
「どっ、どえらい…?」
せっかくの気合いが、プシュんと萎んだ気がした。
どえらいの意味が、分からなくて。
「安藤さん、時の人やもんな。」
「と、時の…」
頭がごちゃんと一回転して、浮かんだのはあのことだった。
誘拐された、あの日のことだった。