第42章 ここは社会、私は子ども
大きな大きな顔の様なデザインが、目の前にドドンっと広がってる。
かわいいデザインのはずなのに、緊張している私にはそれが威圧的なデザインに見えて、ただ立ち尽くしてしまう。
先輩は、当たり前にその顔へと歩いていく。
それが先輩の日常なんだと、その行動が伝えてくる。
「どうした?…帰るならそれはそれで…いいけど。」
「安藤?」
ふたりは扉の前で私を振り返った。
困惑した顔と、心配そうな顔。
もう怖気付いてる暇なんてないのに。
「なっなんでも…!です…」
緊張で顔が熱かった。
手汗も凄いし、冷や汗も。
事務所に入って、廊下を歩いて。
所在無くうろうろする私の手が気になったのか、鋭児郎くんはじっと私の手を見た。
「あっ、その…ごめん。」
「いや、本当に緊張してんだな。大丈夫!俺がいるだろ!あっそうだほらここ、掴んどけよ!」
そう言って彼は、自身の袖をぴんと引っ張った。
顔がもっと、熱くなる。
指は一瞬だけ宙をさ迷って、それから引き寄せられる様に伸ばされた袖をぎゅうと握りしめた。
緊張して、他のことが考えられなかった。
両手で彼の袖を掴んだままよたよた歩いていると、あっという間に扉の前についてしまった。
この部屋の先にファットガムさんが。
鋭児郎くんの袖がくちゃくちゃのしわしわになっているのに気がついて、思わずぱっと離す。
「ごっごめん、鋭児郎くん…。袖がしわしわだ…。」
「気にすんな!ほら入ろうぜ!」
先輩が扉をノックし、扉を開ける。
全部がスローモーションに見えた。
扉の向こう、一番初めに感じたのは
たこ焼きのいい匂いで。
「おっ、環来たか!一年連れてくる言うから待っとったで!」
その次にはもう、威勢の良い関西弁がポンポン飛んできた。
「言ってた一年、連れてきました。」
「よく来たなァ!切島くん!それから、安藤さん!」
「うっす!俺切島鋭児郎っす!」
「あっ、安藤です!…あっ、ひよこです!安藤ひよこ…!」
大きな大きな身体は、私たちを歓迎するように広く両手を広げていた。