第42章 ここは社会、私は子ども
何処かで聴いたことがあるような音楽で、車内は急に騒がしくなる。
《まもなく、新大阪です。東海道線と地下鉄線____》
「降りる。」
「おすっ」
「ゃい!」
先輩のその三文字に、私は緊張しきった返事をした。
現在私と鋭児郎くんは、新幹線に乗ってファットガムさんの事務所へ向かっている。
さっきまで、新幹線に乗っていることに対してのワクワクの方が勝っていたのに。
一駅止まるごとに、私の心の震えが大きくなっていった。一駅ごとに気温が1度ずつ下がってるんじゃないかな、なんて思った。
「やべぇ緊張してきた!」
そんなことを溌剌と喋る鋭児郎くんの隣で、私はカタカタと震えている。
鋭児郎くんは、大丈夫だと思う。
体育祭での実績があるし、職場体験での指名をいっぱい貰ってる。
その点私は、体育祭のことは話題にして欲しくないほどひどい結果だったし、来た指名もかなり特殊だった。
実績、と呼べるものがない。
もし、ファットガムさんに門前払いされたら。
そんなことが頭をチラついて仕方ない。
『アンタなんで来たんや。早う帰んなはれ!』
なんて私の頭の中のエセ関西弁でシュミレーションしてしまう。
新幹線から降り、構内に降り立つと知らない匂いがした。
「大阪の、匂いがする。」
「なんだそりゃ」
鋭児郎くんは笑いながら私を見た。
知らない風で、足が竦んでいる。
「安藤、緊張してんのか?」
「…して……ない…。」
「無理すんなって。」
「……ほんとはすごく…」
「やっぱ緊張するよなぁ」
環先輩はこんな私たちのやりとりなんか放って歩いていく。
リュックサックのヒモを握り締め、鋭児郎くんとふたりで先輩の背を追った。