第41章 ノミの先輩と隠れる後輩
『ごめんね。うちはそういうこと、やってないよ。』
枕を強く強く抱き締めながらきけば、電波に埋もれた優しい声は、そんなつれない回答をする。
インターンシップのこと。
私は職場体験先の丸田さんにまず話を聞いた。
私は布団に寝転がったまま、そんなぁと足をバタバタさせた。もちろん声は出してない。
『ひよこちゃん?』
「あっ!な…なんでも!」
私は見られていた気になって、飛び起き正座をする。
「…ご、ごめんなさい!急にこんなこと…」
『いいのいいの!そっか、ひよこちゃんもうそんな時期かあ。』
「…はい。どうしても行きたくて。」
丸田さんは前と同じく優しくて、柔らかくて、
『うん。インターンシップ、いろいろ厳しいと思うけどやるべきだ。けど、ここじゃない方が絶対、力になるよ。』
そして、堅実だ。
『同じところでは同じ景色しか見えない。新しい景色を見るのも、いいんじゃないかな。』
私は、拳を膝にのせたままゆっくり頷いた。
『こうなりたいって、人はいる?』
「そりゃあ…」
たくさん。
お父さん、お母さん、オールマイト、相澤さん、出久くん、勝己くん、クラスのみんな。
そうやってたくさん顔を思い浮かべていって、ハッとひとり、思い当たる。
「あ」
「お、誰かいた?」
「…うん…います」
尖った耳に、ナイフのように鋭い三白眼。
そのくせ性格は私と同じで小心者で、
「すっごくかっこいい、先輩がいるんです。」
『なるほど。うん、頑張って。』
「…アドバイス、ありがとうございました!」
失礼します、と電話を切った。
胸がちょっとだけ熱くなった。
頬も少しだけ熱くなった。
枕にぼふんと倒れ込んでぎゅっと全身に力を込めて丸くなる。
進んでる、着実に。
私は、進んでいる。
そんな喜びが胸の底から溢れていた。