第40章 〈番外編〉我逢人
ガチャリ
僕はゆっくり扉を開ける。
共有スペースにはもう、誰もいないとふんで。
どうしても外の空気が吸いたくなって。
しんとした廊下は、どこか心地いい。
少しだけ肌寒いろうかをすすみ、エレベーターではなく階段を使った。
共有スペースに足を踏み入れると、ソファで揺れる頭が目に飛び込んでいた。
黒い髪、小柄な体躯。
そんな特徴を持つのは、彼女しかいなくて。
「ひよこちゃん…?」
「んんぅ……」
思わず漏れた声に、僕は口を手で塞いだ。
しかしその声への反応はなくて。
覗き込んで見れば、彼女は目を閉じていた。
目を閉じてゆっくりと、ふねをこいでいた。
「風邪…ひいちゃうよ…」
その声に、彼女は小さく口を緩ませた。
お風呂上がりに寝てしまったのか、髪はまだしっとりと湿っている。
さっきの盛り上がりは、いったいなにをしていた音だったのだろう。部屋まで聞こえたその音の答えは、ここにはないようだった。
ひよこちゃんの横顔は大人みたいに綺麗で、閉じた瞳をいろどるまつげは長い。細い黒髪は白い頬にかかって、複雑な模様を描いている。
でもちゃんとおさなくて、昔と変わらない。
「あのね…。」
彼女の隣に座り、その変わらない寝顔を眺めた。
僕の口から、小さく言葉が溢れていった。
「僕ね……」
その声は、優しく大切に、大切なものを包み込むように。
「ひよこちゃんへの気持ち……ずっと考えてた。…妹みたいな…お姉ちゃんみたいな、親友みたいな。」
彼女の肩は薄く、眼帯は厚っこい。
「それから、守らなきゃとも…思った。」
「んぅ……」
寒そうに身じろぐ彼女に、そっと上着をかける。
それから、
「大切ってことはずっと変わらない。それだけは、忘れないで。」
そう言葉を落として、僕は立ち上がった。
意地でも、謝ることはしたくなかった。
謝ってしまったら、ひよこちゃんの守ろうとしたものを、その強さを、蔑ろにしてしまうきがして。
言葉に出して、初めて気持ちが整った気がした。
自分の心が分かった気がした。
明日からは、きっと大丈夫。
ただ僕は、ひよこちゃんに