第40章 〈番外編〉我逢人
形容ではなく、本当に目と鼻の先。
夜空のように輝く瞳がすぐそばにいる。
こんなにも近くで見るのは、意外にもはじめてだった。
慌てふためき離れようとするひよこの頭をぐっと抑えこみ、またサクリとひとくち進める。
口内にはチョコレートの苦味だけが広がっていく。
ふざけんな。
なにに怒りを覚えてるのか。
その理由には目を向けたくはなかった。
顔が近づく。
どんどん近づく。
長いまつげも、やわとした小さな唇も。
“ずっと見ることのなかった”、熱っぽい、恥じらいを含んだ瞳も。
そして、ピタリと口を止める。
慌てたような、悲しいような。
いつもあいつにばかり向いていた、あの瞳が、俺をとらえたから。
そんな瞳で、あの背を、いつも見てきた背を思い出したのだ。
ザクっ
「お…え…?」
そんな音で、そんなくだらないゲームは終わった。
「ば、爆豪…?」
途中棄権者は、俺だ。
あほ面でポッキーを咥えたままぽかんとしているひよこに、小さくつぶやく。
「てめェは、____」
「わ…私、は…」
真っ赤な顔で狼狽えるひよこをほおって、俺は部屋へと歩いた。
「え、なになに?わっかんない!」
「ねえねえ安藤!どーいうことなの!?」
「おい爆豪!」
「待て待てお前どういうことだよ!」
そんな見当違いのざわめきも、全部無視して。
「……なんとなく、わかった気がする…。でも……わかっちゃったら、また怒られちゃうかな。」
「なになに!全っ然わかんない!」
「だって安藤の好きな人って」
「うん。私の好きな人は、まだ、____」
その声は、いつもきいていたもの。
バカで優しいその声は。
少しだけ、懐かしかった。