第40章 〈番外編〉我逢人
「おなかすいたァー。」
「今日の実習キツかったねぇ。」
「疲れちゃった。」
ほら、また。
「ねぇねぇ、誰かお菓子持ってない?」
「うーん、あっ!ポッキーあった。」
「やったー!ポッキーじゃん!ポッキーゲーム!」
「ポッキーゲーム?」
あぁ、もう。
彼女の声が、彼女の気配が。
ビシビシと僕を叩く。叩いて、叩いて。僕を振り向かせようとする。
それでも、僕は頑なに
そっちは絶対、向かなかった。
というか、向きたくても、向けなくて。
「緑谷?」
「あっ、や、なんでも、ないよ。」
轟くんはふわりと振り返り、不思議そうな顔をしていた。
なんもないなんもない。
そう嘘をつくと、僕はゴミを持ち上げ、歩き出す。
轟くんはどんな顔をしていたんだろう。
そんなこと考えてる暇も気力もなくて。
ひとり思考の渦に飛び込んでいく。
ひよこちゃんは。
そう、ひよこちゃんは。
大切で。
そこから、思考の渦は動かなくなる。
「ぷはぁ!」
熱の溜まった顔を上げ、空を見上げた。
秋になりかけの澄んだ空が目に入って、急に焦りに襲われる。
こんなにももやもやしてていいのだろうか。
でも、ひよこちゃんは、大切で。
彼女は大人のように。
でも、僕のよく知った少女で。
はやく決着をつけなければと思うのは、
ひよこちゃんに。
ガサリっ
ドサッ
ごみ収集の場所にゴミを、半ば投げ捨てるように置き、走り出す。
分からなくて、部屋まで走った。
共有スペースに居たみんなには、いつも通り、忘れ物!とか、急用!とか適当にそう言って。
ひよこちゃんは、いなかったと思う。