第40章 〈番外編〉我逢人
『あぁ、あなたが出久くんね。私は安藤ひなた。これからよろしくお願いします。』
その人は、恭しく頭を下げていた。
頭をあげればまた笑顔。
柔らかく、暖かく、優しい笑顔。
その暖かさに、目を瞬かせたのを覚えてる。
『ひなた、さん……。よ、ろしく、お願いします。』
僕はお母さんの裾から一歩でて、小さな声でそういった。
ひなたさんはそれを聞いて、これ以上あったのかと驚く程に頬を綻ばせてにっこりと微笑んだ。
その後ろの小さな影を、気にする余裕はなかった。
『ひよこも、ほら。あいさつして。』
優しい声で呼ばれたその子は、震えていた。
“ひよこ”という動物そのもののように、小さく、柔く。
怯えたように潤んだ隻眼をこちらに向けていた。
『あ、の……わ、私…その、……』
初めて聴いた彼女の声は、小さな小さな声だった。
“かとんぼよりも”小さな声だった。
小さく儚い“ひよこ”の鳴き声は、
うまく聞き取れなかった。
僕はこの時、彼女と仲良くなれるだなんて思っていなかった。
あんなにも大切で、
あんなにも特別で、
あんなにも大きな存在となるとは、
思ってもみなかったんだ。