第39章 ベイビー、グッドモーニング
先輩の着ていた体操服が不自然に、ハラハラと、散っていく木の葉のように、落ちて……落ちて。
その瞬間が写真のようにぱっぱっと固まって、頭に流れ込んでくる。
え、やだ、なに?
そんなの見てしまったら、思考停止に陥ってしまうに決まってる。
だってしょうがない。
女の子だもん。
「な、はだ…か」
「今、服が落ちたぞ!」
呆然とする私の横を、稲妻のように緑の光が走る。
“デクくん”が、走り抜ける。
それを隙と見たようで。
彼の脚は容赦なく先輩の顔面に蹴りを入れた。
蹴りを入れた、はずだったのに。
やっぱりそれはすり抜けて。
さっきの、服のように。
「顔面かよ」
「えっ、」
あの先輩、
透き通っちゃうんだ。
通り抜けちゃうんだ。
触れられないんだ。
なぜだかぶわっと立ち上がった鳥肌に困惑する暇もなく、視界から先輩は姿を消した。
「まずは遠距離持ちだよね!!」
そんな凶悪な声は、後ろから。
ばっと振り向いて全てを目に入れた時にはもう、砂煙でいっぱいで。
「通形ミリオは俺の知る限り」
それで砂煙が開けた瞬間にはもう、
「最もNO.1に近い男だぞ」
みんなは倒れていて。
「プロも含めてな。」
立ち上がった鳥肌は留まるところを知らず全身を駆け巡った。
「なんばー、わん」
興奮する頭は、繰り返すことしか出来ず、
感動で上ずった声は虚空へ溶ける。
頭、回らない。
血が、沸騰してる。
手元の剣は、勝手に揺れてゆれて、細く、鋭く。
裸で、変態な先輩なのに。
太陽みたいで、明るくて、
透明だった。
かっこいい。
私も、こうなりたい。
だからこそ、負けたくない。
「はっ!」
剣に力を込めれば、鋭く、透き通って。
ゴリゴリと引きずった剣はまた勝手に飛び出していく。
沸騰した血が、宙を舞い、踊る。
楽しくて。
楽しい自分が少し、怖かった。
振り返って現れた先輩に、脊髄反射で剣を振るう。
もうひとつめの、個性を使って。
先輩に向かって飛んでいく針のような血を、透過して欲しいのか、当たって欲しいのか。
自分では分からなかった。
でもそんなのものともしなかった先輩は、針を完璧に避け、
先輩は目の前でニコリと笑ったあと、
私の鳩尾に一発いれた。