第39章 ベイビー、グッドモーニング
目を何度か瞬かせて、それから先輩をもう一度見てみた。
確かに鋭い眼光だけど、
なんだか顔色悪いし震えてる。
右に曲げていた首を今度は左に傾けて、先輩をマジマジと見つめる。
「駄目だ……」
ボソリと小さく低い声が聞こえた。
黒板の前でボソボソと小さく話す声はよく聞こえないけれど、でも、もしかしたらとひとつ予想が芽生える。
「帰りたい……!」
グルンと後ろを向いてしまった先輩に、私の予想はさらに大きく、さらに鮮やかに。そして、
「あ、聞いて天喰くん!そういうのノミの心臓って言うんだって!ね!」
「先輩…“どうぞく”なんだ…!」
「ひよこちゃん?」
「あ、ううん!何でもない!」
さっきは挙動不審に返してしまったつゆちゃんの言葉を、今度は普通に、元気よく返した。
そうかそうか、そうだったんだ。
ぶつかってしまった先輩。
あの『天喰』という先輩は、“どうぞく”なんだ。似てるんだ。
とってもとっても強くて、雄英トップって言われてて、顔も怖くて、背も高いけど、心臓は私と似てるんだ!
頬が勝手に高揚して、目がキラキラと輝き始める。口が半開きになって、ほわぁなんていう馬鹿みたいな声が漏れてくる。
ノミの心臓なのに、先輩はすごいんだ。
先輩は強くってかっこいいんだ、と。
「安藤さん!その眼帯の下はどうなってるの?何で眼帯してるの?」
「ほやっ!」
声に驚いて前を向くと目の前に、3人組の中の1人、綺麗なお姉さんが立っていた。
私の右目を指さしながらふっしぎぃーと笑っている。
「ほやだってー!話は聞いてなきゃー」
「えっ、あっ、えと、」
綺麗なお姉さんはおっきな声で元気いっぱいで。
いきなり現れた元気の塊に、私の心臓はドキドキと飛び跳ねている。
「前途ー!?」
「!?」
おっきくて突拍子もない言葉に、心臓がまたドキンと飛び上がった。今度はなんだろう、ゼント?
目を声がした方に向ければ、金髪で目のパッチリとした先輩が大袈裟な格好でこちらに耳を向けていた。
キラキラと大きなその先輩は、なんだか太陽みたいに見えた。
「多難ー!っつってね!よォしツカミは大失敗だ!」
前の先輩は、太陽のように笑っている。
ちょっと顔色悪く、サンサンと。
不思議な3人組だった。
美女と、太陽と、“ノミ”の。