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夢を叶える方法【ヒロアカ】

第39章 ベイビー、グッドモーニング




夏休み前から安藤は、何も変わりなく見えた。

夏休みに起きたあの大事件を、知らなかったみたいに。


頬袋いっぱいにあんぱんをつめて一生懸命に食べている姿を見る限りは、なにも変わらない。


でも、時折見せるのだ。
どこか遠くをぼぅっと見つめる瞳を。

その瞳にはなにも写ってはおらず、遠くの何か、俺の知らないなにかだけをじっと捉えているのだ。


「…なぁ、安藤。」
「んー?」


声をかけてもいつだってゆるゆるの表情をして返すものだから、やっぱり拍子抜けしてしまって。


「安藤って、凄いのか凄くないのかよくわかんないよな。」
「えぇー…でもなんかそれ誰かに言われたことあるような気がするな…照れるなぁ…」


“凄い”、の言葉を勝手にいいように解釈して、安藤は勝手に照れている。

私すごい人間、と頭をかきながら。


「……こんなの見るとバカにしか見えないんだけどな。」
「バカとはなにごと!」


表情はまたコロリと顔が変わった。ムッと眉をつり上げて頬を膨らましている。

こんな単純バカなところが憎めないところで、そこが羨ましいところで。


「せっかくいいこと言おうとしてたのに…」
「へぇ、なんだよ。」

「……人使くんといると、楽だ……って。」


意外と長いまつ毛を伏せて、安藤はぼそっと呟く。

影のできたその横顔は、どこか寂しげで儚い。


「楽って…」
「気持ちがふわって軽くなって、ほっとするの。」


その目は、またどこかを見つめている。

どこか、俺の知らない何処かを。


「ふーん。」
「なんでだろね」


知りたい。
何を見ているのか、教えて欲しい。

でも、安藤は気づいていないけれど、“何も知らない俺”だからこそこんなに緩やかな顔をしているんだろう。


「俺だってもっと…」
「んー?」


もやりと心に生まれたしこりを顔に出せば、安藤はハッと気づき眉を八の字に曲げる。そして、小さく口を開く。


「私は…人使くんと同じ教室、楽しみだな。」


違うのに。


気を使うところを間違えて、伝える言葉を間違えて。

でもまぁいいかと思ってしまうところも安藤の良い所だ。


「…待っとけよ。すぐ追いつくから。」
「うん……そだね!負けないからね!」


安藤は緩く笑った。



それを見て、知らないでおこうと決めた。
俺は、ずっと。何も。



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