第39章 ベイビー、グッドモーニング
Side 心操人使
「あ、安藤だ。」
「はぁっ、…ひ、人使く、はぁ……あの…はぁっ、」
安藤が来た。
薄い肩を揺らし、白い肌を桃色に蒸気させて突っ立っている。暑いのか、汗が光っているのも見えた。
「…どうした?」
「いろいろ…はっ…はぁ…あったの。」
「ふーん。」
苦しそうにそう告げた安藤は、少しだけ泣きそうな顔をして言葉を続けた。
「人に…はぁっ、はぁっ、ぶつかっちゃったの……」
「へぇ」
「ちょっぴり怖い…たぶ、ん…先輩の…ひと…」
「うわ」
「テレビ…弁償しろって……」
「終わったな」
「あぁぁ……」
何を言ってるかよく分からなかったけれど、どんどん落ち込んでいく安藤が面白く、ついつい意地悪く言葉が出てしまう。
そして安藤が身一つで立っていることにも気づき、またにやりと頬が上がった。
「安藤、飯は?」
「あのね…そのね……テレビの代わりにって……その方のところに…置いてきてしまいまして…」
「ぶはっ」
「私の…チキンカレー……。初めて買った…購買……」
「ばっかだな。」
安藤を見てたらどうしてだか気が緩んで、どうしてだか馬鹿みたいに笑ってしまった。
テレビで見た安藤とは、違った。
安藤と話がしたくて約束をした。
昼休みにでも一緒に話そうと。
ご飯を食べながら、ゆっくり話そうと。
テレビのそれが、気にかかったから。
「俺の1個やる。」
「えっ、いいの!?ありがとう!!」
あんぱんをその手の中へ押し込めば、安藤はすぐに笑った。俺が作ったことのない程の、キラキラとした笑顔で。
心が、緩んでいく。
「安藤と居ると頭使わなくていいからいい。」
「それってほめ言葉?」
「ほめことばデス。」
絶対嘘だ、と今度はぷくっと頬を膨らませてペタンと腰掛ける。次から次へと変わる表情が嬉しくてそして、安心した。
テレビで安藤を見た時、天地がひっくり返るほど驚いた。
耳を疑った。
目を疑った。
現実なのか、疑った。
安藤を思い出しても、馬鹿みたいに笑っている顔ばかりが浮かんで、でもそれから最後に一瞬、
泣きながら俺に掴みかかる安藤が浮かんだんだ。