第38章 眇の恋心
パタン、と寮の扉が閉まった音が響いた。
私は、その場に立ち尽くしたまま、それを眺めていた。
心が狂おしいほど脈打って、生まれて初めてこんなにも、信じられないほど重たい。
風が火照った頬を撫ぜて、緊張の糸がプツンと途切れた。
終わったんだ。
ほろ、ほろりと、2粒。
頬を転がり落ちていくなにかがあって、私は慌てて目を擦り、ぐっと瞼に力を込めた。
息もとめた。舌も噛んだ。
泣かないって、約束したから。
ふらりと足を動かして、扉に手をかけようとした時、私が手をかける前に扉が開く音がした。
「か…つき…くん。」
「んだそのブッサイクな顔。」
涙をこらえる私の顔を、幼なじみの彼は、嘲笑った。
「私…その…約束…」
「聞いてたわ。」
「でも私、泣いてなんか、」
ないよ。
そう言おうとすると、勝己くんは口を開く。
「泣いとんだろ。」
「あ…れ……。」
驚いて頬に触れると、濡れていた。
熱い何かで、濡れていた。
その何かは、こらえてもこらえても、溢れて止まらない。
嫌なのに。泣きたくないのに。
どんどん溢れて、どんどんどんどん、こぼれていく。
「なんで…なん…で…やだよ…やだよぅ…」
「そんなん苦しいからだろ。」
「でも、私…」
「いいから泣けうぜぇ。」
勝己くんのその声は、ぶっきらぼうで、優しくて。
その声を引き金に私は、泣いた。
「…う、うぇ……うわぁぁん!うぁ、…ぁぁん!…あぁ、ぁあああん!」
知ってたよ、なんて強がった。
知りたくなんか、なかったのに。
本当は、彼の答えなんて、ずっと昔から知っていたんだ。
好きだから、知っていた。
知っていたから、好きだった。
心でずっと、願ってたのかもしれない。
彼のその答えを。
彼の、言葉を。
彼の最高のヒーローになる姿を。
でも、願った。
手を繋いで、一緒に歩いてなんて、馬鹿みたいにそんなことも。
涙と一緒に、好きだったっていう気持ちも期待も、全部落ちていっちゃう気がして、それで寂しくなってまた泣いた。
今はそれだけで、いっぱいいっぱいだった。
絶えることを知らないこの涙は、
私にこれが本当に“初恋”だったと、痛いほど知らせて。
初恋が、終わったんだなって分かった。