第38章 眇の恋心
Side 轟焦凍
今日の安藤は、情緒不安定だった。
ぼーっと魂が抜けたように歩いていたかと思ったら、コロッと怒ったり、スキップしたり。それからまたすぐ思いつめたような顔をしたり。
思いつめた顔をした安藤は、ひとり列を抜け出して、オールマイトに話しかけていた。
変だった。
始業式が終わった後、安藤は一人でどこかへ行った。
どうしてここまで目で追ってしまったのか。
どうしてそこまで気にかけたのか。
それは夏休み中のあの出来事が原因で。
初めて安藤の家庭のことを知って、安藤のこれまでを知って。
似てると思ったんだ。
何故だか、少しだけ。
心のどこか、奥深くで似てると。
曖昧にそう感じて。
俺は緑谷に目を覚まさせられた。
それで、今度は俺が、安藤の手を掴む番だと。
なんとなく、そう思って。
皆より少し遅く教室に帰ってきた安藤は、まだなにか考え続けていた。
いつもより眉には力が入っていて、口もキュッと結ばっている。
「なぁ、安藤。」
俺がそう声を出しても安藤は返答せず、ただ真剣に何かを考え続けている。
大人しく席の隣でぼーっと待ち続けると、しばらくしてからハッ、とこちらを向く。
「あっ、あれ?轟くん!ごめん!いつからいたの?」
「2、3分前ぐらいから。」
「ごっごめん!声かけてくれればよかったのに!」
「かけたぞ。」
ほんとにごめんね、と安藤は頭をかいた。
「お!安藤くん轟くん!ふたりなんて珍しいな。」
通りがかった飯田が加わって、会話は少し賑やかになる。
「安藤が考え込んだ顔してた。」
「えっ、ほんと?」
「本当か!」
安藤は、わかりやすいんだなぁ…といいながらぐにぐにと頬を抓っている。
飯田はそれを覗き込んで元気よく声を上げた。
「なにかあったらなんでも言ってくれ!」
「友達だろ。」
安藤は、ハッと目を見開いた。
凄く、わかりやすい。
「…ありがとう。嬉しい。でもね、これはどうしても、私がひとりで考えないといけないことなの。」
真剣な顔で、安藤は言う。
「私の、ずっとずっと大切なことだから。」
「そうか。」
「安藤くんはよく頑張るな!」
安藤、強いなと思った。
「ありがとう。私、頑張るよ。」
安藤はにっと笑って、俺はほっと息をついた。