第38章 眇の恋心
Side 爆豪勝己
「ケンカして、謹慎〜〜!?」
煩い声が寮に響いた。
それに続いてチラホラと、馬鹿かよだの、骨頂だの、ナンセンスだの。
ぐうの音も出ない。
確かに、俺は馬鹿をした。
後悔などしていない。
だからといってその声に腹が立たない訳では無い。
苛立ちを孕んだまま、フローリングから顔をあげると、またも苛立ちを倍増させていく顔、顔、顔。
その中に、いつもと違う、変な顔を見つけた。
いつもより腫れぼったい大きな瞳。
いつもより赤くなったその瞳に、誰も気づいていないのだろうか。
クラスの奴らの後ろでヘラっと笑ってる。
何かを隠してるときの、あいつだ。
掃除をポイと放棄して、ひよこの元へと歩く。後ろからデクの「え、なに!ちょっと!」という声が聞こえた気がしたが、無視した。
「おい。」
「えっ、…えと、そうじ、しなきゃ…」
ただ声をかけただけなのに、一歩下がって両手を胸の前で握りしめてる。
「ちっ」
思わず舌打ちが出るほど、
「……かりやすいんだよ…。」
「え?」
組んだその腕を引けば、すぐに体重は移動してもたついた足がついてくる。
「あっ、えっと、が、学校!行かなきゃ、だし…その。えと、謹慎なんて…珍しい、というか…」
普段そこまで動かない口がペラペラと動くのも、隠し事をしている証拠だ。
俺はクラスの奴らの陰に隠れ、ただ一言。
「居たんだろ。」
こちらを向いていた赤い瞳がピキリと凍りつき、口がきゅっと結ばれる。
「な、なに?いっ、居たって…ど、どこに?」
下唇を隠してる。
それから、いつもは真っ直ぐ覗いてくる瞳もこちらを見ない。
もう決まりだな。
「昨日のだよ。聞いたんだろ。アレ。」
「っ……。…うん、本当にごめんなさい。」
ひよこは観念すると、下唇を隠すのをやめて、目を伏せた。
「全部全部……聞いて……た。」
聞いていた、とひよこは言った。
多分本当は、“聞いてしまった”だ。
だからそんなに腫れぼったい目なんだろ。
だからそんなに、泣いたんだろ。
「分かってるな。」
「うん…大丈夫絶対。……私ね、私に出来ること、探すよ。」
ひよこは面を上げると震えながら、でも勇敢に真っ直ぐに目を覗き込む。
ずっと見てきたキラキラと輝くこの瞳ならと、