第37章 Let's struggle!
「何をしてんだよ!」
力の限り、血の限り走ったら、後ろから、彼の声が聞こえた。
真っ直ぐ、真面目な彼の声だ。
その声を聞くといつも、どうしても、思わず振り返ってしまう。
さっきまでお話していた真堂さんが、出久くんに引っ掴まれている。轟くんと夜嵐くんがさっきの超音波攻撃でやられている。
結構、やばいじゃないか。
足は、その戦線の方へと、勝手に動き出しそうになった。
でも、その足は考え直してぐっととどまる。
真堂先輩のこと、信じなきゃ。
轟くんのこと、信頼してるなら。
私は邪魔しちゃダメだ。行かなくてもいい。
私には私で、やることがある。
真堂先輩の足止めを、待て。
息をひとつ飲んで、腕に力を込めて。
剣を構えて、形を整えて。
バゴッ!!
大きな大きな地割れの音が、耳に届いた。
今だ!
「足は止めたぞ!奴らを行動不能にしろ!」
言わなくても、分かってますよ。
心の中で、小さく頷いた。
脚に力を込めて大きく跳躍して、地割れの中へと飛び込む。
うじゃりと現れる部下の方々が、目に入った。
やれるだろ。
敵を、制圧するんだ!
個性に身を任せて、スイッチを入れる。
身体は私の知らないふうに動き出す。
自由に、空を舞うように。
少しだけ、怖いけれど
平気だ。
手網はちゃんと、私が握っているから。
「安藤!加勢だよ!」
「あんまり無茶苦茶しないこと!」
みんなの声も合わさって、私の心はだんだんと穏やかに変わっていく。
飛べ
避けろ
薙ぎはらえ
ドームから見る青空は、何処までも澄んでいた。
飛ぶ合間に見える空には、赤の雫がキラキラと飛んでいる。
キレイって、初めて思えた。
ちゃんと見えているって、気がした。
ビーー!!
耳を劈く機械音が鳴り響く。
仮免試験終了の合図だった。
私は赤の塊となった部下さん達を見下げて、ごめんなさいと小さく声を漏らす。
瞬間、急に足に力が入らなくなって、瞼の後ろがチカチカ光った。
「わ!安藤ちょっと!」
「…血が…た…り……」
「貧血!?」
「鉄…鉄分……」
「え、おい!」
抱きとめてくれた誰かの腕の中で、私は意識を手放した。
そんなふうにあっけなく、仮免試験は終わった。