第37章 Let's struggle!
「おじいちゃんとは何処ではぐれちゃったか、おしえてくれる?」
「あっ、あっちの、」
しゃくりながらも指してくれる指の先を、私は必死に追った。
「うん、分かった。ありがとう!」
受け答えはしっかりしてる。
怪我はどうだろう
なんて確認していると後ろから“パンッ”という破裂音が響いた。
乾いた音は、私の鼓膜にグサリと突き刺さる。
それほど大きな音でもなかったのに。
驚いて振り向くと、頬を真っ赤にした出久くんが、すっごく真剣な顔をして立っていた。
私の好きな、あの表情だ。
「ひっ、ひっ…おじ、おじいちゃんん!がっ!」
「大丈夫!!必ず救けるよ!!」
あの真剣顔は、すぐに笑顔に変わった。
緊張で少しだけ歪んだ笑顔。
焦りで不自然な笑顔。
不器用な笑顔。
でも、ヒーローの笑顔だ。
「ひよこちゃん、さっき貧血起こしてたでしょ。この子運ぶのは無理だ。僕が運ぶ。皆も先行ってて!」
「…あっ、うん。じゃあ、おじいちゃん探すよ!」
「うん!」
出久くん、貧血のこと、分かってたんだ。
恥ずかしいな。
眉に少しだけ力が入って、頬がちょっぴり熱くなった。
指さす方へ進まなきゃ。
そんなふうに出久くんたちに背を向けると、後ろから声が聞こえた。
「ひよこちゃん、ごっ……あ、ありがとう!」
その声に振り返っても、彼はもう背中しか見えない。
ふーっと風が吹いた時の水面みたいに、私の心は揺れた。
なんてちょろいんだろう。
心は甘く痺れてぎゅっとして。
この秘密が、もうすぐで秘密じゃなくなるんだと思うと、またなんだか叫びだしたくなっちゃって。
「安藤くん!こっちだ!!」
「あ、おう!!」
名前を呼ばれてハッとする。
なにしてんだ私は。
これは試験だ。
これは、絶対のやつなんだ。
こんな不埒な心を追い出すように、両の頬をぶん殴った。
パンッ
といい音がして。
さっきの音はこれかと、少しだけスッキリした。