第37章 Let's struggle!
スタート
の言葉と一緒に足を動かし走り出す。
太陽の光が顔を叩いて、
風が私を励ましてくれる。
「とりあえず一番近くの都市部ゾーンへ行こう!なるべくチームで動くぞ!」
天哉くんの大きな声に、私は小さく頷いた。
多分誰にも見えていないけれど、
自分に向かってうんって。
ふと耳に、小さく泣き声が聞こえた。
うわぁーんって、必死な声。
嗚咽も混じった、苦しそうな声。
そんな声、絶対拾ってあげないと。
「こっちからちっちゃい子の声がする!」
「安藤くん本当か!」
言葉を置いてけぼりにして、足は瓦礫に駆けていく。
瓦礫の山に近づけば泣きじゃくるその音はどんどん大きくなっていく。
ひゅーと掠れる呼吸の音も、鼻をすする音も。
「いたっ!あそこだ!」
「小さいお兄ちゃんが座っている!!」
あまりにもいきなり訪れてしまった“第一関門”に、私は一瞬たじろいだ。
「ひっ、ひっ…ああああ゛ん!!だずげでぇぇぇ!!」
こんなに必死に助けを求める子、初めて見た。
だからかな。
足が一瞬、動かなかった。
「あっち…!おじいちゃんが!!ひっ潰されてぇ!!」
「ええっ!大変だ!!どっち!?」
でも、空気を吸ったら隙間ができた。
その隙間に、驚きも不安も疑心も全部、押し込んだから。
好きな人の声が耳に届く前に、足を一歩動かすことが、出来たのだ。
私の得意なことなんて、
「教えてくれてありがとう、お兄ちゃん。よく頑張ったね。」
「ひっ、ひっ……ああああ゛ん!!」
“優しく声をかけること”くらいだから。
「ひよこちゃん……」
「私の、得意分野。大丈夫!」
しゃがみこんで、同じ高さになったお兄ちゃんの目を見る。
それから、笑顔。
「もう大丈夫!このお兄さんお姉さんたちが…」
と彼らをさそうとしてむぐと口をつぐむ。
もっと相応しい代名詞が、彼らにはあるじゃないか。
「“ヒーローたち”が、来てくれたから!」
その言葉に
視界の隅の緑色が、少しだけ揺れた気がした。