第37章 Let's struggle!
「もう大丈夫か?」
「…うん、心配かけてごめんなさい……」
控え室の椅子にぐいぐいと座らされて、しゅんと下を向く。
「安藤は自分を大切にしねぇとダメだろ。」
鋭児郎くんは、座る私の前で腕を組み眉をつりあげている。
めっちゃ、怒っている。
鉄分補給用の栄養ドリンクを、彼は持ってきてくれた。
ストローをパクンと咥えて、顔を伏せたままありがとう、と小さく呟く。
茶色がかったビンは、汗をかいて水を滴らせている。
“Fe”とデカデカと書かれたパッケージを、つめを立てて剥がして。このもんもんとした気持ちを、発散して。
2倍2倍って、私。
こんなんじゃ1倍も出来てるのかわかんないよ。
前髪の隙間から、ちらりと“彼”を見つめた。
真っ直ぐモニターを見つめて、真面目な顔をしている。
いつだって彼は真面目で真剣で。
こくんこくんと冷たいものが喉を通っていく。
染み渡って、
足りてなかった血が、いっぱいになっていくのを感じる。
はぁあ。
飲み終わったビンを置き、顔を上げると、それと同時にバチコンっと額を強く殴られた。
「あいだっ」
「まじでクソバカか。周り見ろ。」
鋭くて、それでもどこかまあるい声がした。
その声に導かれて見上げると、彼はもうこちらを見てはおらず、いつも通りの不機嫌さで紙コップを持っている。
じんじんと痛む額を擦っていると、鋭児郎くんの、大丈夫か!の声が聞こえた。
「…すごいいだい……」
「あいつ結構な強さで殴ってたぞ…うわっ、タンコブんなってるぞ!湿布湿布、確か配ってたよな!」
いいよいいよ、と声をあげる頭まで回らなくって、私はぼーっとモニターを見上げた。
ちょうど、青山くんが見えた。
汗いっぱいで、髪を振り乱して。
いっつもキラキラしていた彼は、今はまた違うキラキラに包まれて、カッコよく映っていた。
そうだった。
『周り見ろ。』
きょろきょろと、挙動不審にあたりを見回した。
士傑のひとも、傑物のひとも、キラキラと汗をかいている。
そうだ、そうだ。
私は、頑張ってる。
みんな、頑張ってる。
ちゃんと、やれてるはずだ。