第36章 ステレオ
お茶子ちゃんにも少しだけ力を借りて、私は高く跳躍した。
髪が重量に逆らってふわりと浮いたのがわかる。
風が肌を撫ぜていくのがわかる。
地上からどれだけ離れているのか、わかる。
みんながどれだけ頑張ってるか。
この会場にいる全員が、どれだけ頑張ってるのか。
さっきより、
わかる気がする。
仮免、絶対とるんだ。
さっきずっとずっと、強い意志が私の中には芽生えていた。
なんでだろうか、どうしてなんだろうか。
そんなことを考える余裕はなかった。
空中で私は、手を広げて血を集める。
ブラド先生に教えて貰った、血液で相手の動きを封じてしまう、という方法を実践するため。
「はぁっ!」
お茶子ちゃんの着地したちょっと後、私は地に足をつけ、血液を叩きつけた。
その攻撃は外れた。
「いいとこだったけど、ザンネン。」
声のする方へ目を向けると、彼女は艶かしい感じで岩の上に座っていた。
あれ、知らない人だ。
さっきの既視感は、一体なんだったんだろう。
そんなことを考えた瞬間、彼女に声をかけられる。
「ひよこちゃん。会えて嬉しい。個性、使ってるんだ。」
「…へ?」
「また、会おうね。」
そんなことを言って、彼女はニヤリと笑った。
背筋が少しだけ冷たくなって、全身が粟立つ。
もしかして、でも、そんなまさか。
「あっ!待て痴女!!」
そんな範太くんの叫びで、ハッと我に返る。
粟立ったままの腕を少しだけ摩って、その背を見つめた。
彼女は一体何者なんだろう。
追わなくていい、そう言われても、
『また会おうね。』
あの言葉が、どうしても私の心を揺らした。