第36章 ステレオ
「なぁ、おい安藤?」
「…だ、大丈夫、全然。ちょっ、ちょっとだけ安心してぼーっと……」
貧血で少しずつぽーっとし始めた頭を、範太くんはグラグラと揺らした。
そんなんじゃダメだろって、瀬呂くんはぺチリと私にデコピンした。鈍い痛みがじんじんとおでこから広がっていく。
「そいでどうするよ、どんどん合格者増えてっけど。」
「……」
必死に頭を回転させて、うーんとうなった。
霧のかかった頭ではなにも見えなくてくらりと頭が落ちそうになる。
「ひよこちゃん?」
「ううん、どうしても思い浮かばなくて。」
「あのさ……襲われてわかったんだけど……少なくとも今近くにいる団体なら何とかなるかもしれない。」
「へ?」
「は!?すげえな!?どゆこと!?」
出久くんを見上げれば、真っ直ぐ強い瞳で考え込んでいる。
そんな姿に胸が少しだけ高鳴って、私のぼーっとした頭は順番に冴えていく。
冴えてそれで、ぎゅっと胸が縮こまった。
出久くんはペラペラと、提案や考えを述べていく。
胸がどんどん縮こまってドキドキはねた。
こんな場合じゃないのに、でも胸が勝手に動いて止まらなくて。
ぎゅっと目を閉じる。
『2倍!!』
そしたら、彼の声が心に響いた。
2倍2倍、2倍!
頑張らなきゃ、ダメなんだ。
出久くんの言葉は次から次へと飛び出して、私は混乱しそうになりながらも必死に飲み込んだ。
「僕が囮になるから、三人は隙をついてなるべく多くの相手を拘束して!瀬呂くんと麗日さんの“個性”は相手の自由を奪いやすい。ひよこちゃんも、行ける?」
「…うん。」
「囮って…こっち四人、数が…無理だぜ。」
「……ラジャ。」
「えぇ!?」
静かに従うお茶子ちゃんの目は真っ直ぐで、出久くんを信頼してるのがよく分かった。
初めて出久くんが羨ましかった。
“信頼”
頑張らなきゃ。
ずっとずっと頑張らなきゃ、なんだ。私は。
「行くっ!!」
出久くんの声に、私は眉に力を込めた。
2倍、だろ!