第36章 ステレオ
「お茶子ちゃんはへいき?」
「うん。ひよこちゃんこそっ!さっきあんなに派手に…!見てて、それできたの!」
お茶子ちゃんは声を弾ませながら、でも小声で急き立てる。
私は頭を抑える手をおろして、お茶子ちゃんに向かい合う。
「これからどうしよう。」
「合格者もぞくぞく出てるからな。」
安心、したことを少しだけ後悔した。
そう、今は試験中で。
パチンと頬を叩き、気持ちを切り替える。
ぶるぶると首を振っていると、今度は範太くんが声を上げた。
「なぁおいっ!あれ、緑谷じゃねぇ?」
「えっ!」
「デクくん?」
瀬呂くんが指さすその先には、もうもうとした煙があって。
彼の姿は全く見えない。
「いる?」
「いた!見えた!あっち行って合流しよう!」
範太くんはすっと立ち上がり、そちらへと向かった。
お茶子ちゃんもうん、と素早く動いていく。
私も、と負けじと足を動かし後ろについて行く。
静かに、あっちの人達にバレないように。
「なぁ、なんかやってね!?ドンパチ!」
「あれ?なんかふたり?」
「タイマンだ!」
近くによってそちらを確認すると、岩陰へ退避した、と見える出久くんが見えた。
後ろには、女の人が、ひとり。
ぞくぞくぞく…と背筋が凍った気がした。
何故だか、分からないけれど。
彼女を見た瞬間、なんだかへんな既視感を覚えたのだ。
「おいなんか、あれ様子変じゃね!?」
「女の人だ!」
「もういい!行くぞ!麗日!安藤!」
「おうっ!」
範太くんが素早く岩の上へ上り、テープを飛ばした。
岩へ登る直前範太くんは、私に耳打ちをした。
「緑谷!なにこの羨ましい状況!!」
「瀬呂くん!!」
「いけ!麗日!安藤!!」
『安藤、お前個性、使えるってことでいいんだよな?』
私は、
「解除!」
「はぁっ!!」
『つかえるよ!』
って。