第36章 ステレオ
彼らの足音を確認し、私は突き立てた剣に力を込めた。
「ん゛っ!!」
雷が走ったような激痛に、私は声を漏らした。
その激痛と共に生まれたものは
目に染みるほど鮮やかな、赤。
私を囲むように突き上げる、“檻”。
瓦礫の山に轟音とともに現れたその場凌ぎのその檻を、パキ、パキリと少しずつ形状を変化させていく。
棘まみれで、
喩えるならそう、茨のように。
彼らを、威嚇するように。
眉に力を込めたまま前を見ても、赤で何も見えなかった。
「なんだ!?」
「檻!?」
「んだこれ棘っ、いってえ!」
その檻の中でそっと息を潜めて、
耳をそばだてる。
彼らの、困惑の声。
それからそれをぶち壊す、
「さがってろ、俺が壊す。」
「つか俺はこんな檻なんて関係ねぇ!」
鋭く大きな声。
ふらと一瞬力が抜けそうになりながらも私は、その言葉を聞いて、すぐさま足に力を入れた。
KABOOM!
空中から見下げれば、先程私が立っていた場所は蜘蛛の巣のような何かで陥落していて、檻はキラキラと破壊されてしまっている。
私は冷や汗をたらし、無い頭をぐるぐると回した。
「でてきたぞ!」
「っしゃチャンス!」
「俺がやる!!」
人の数は増えていて、個性はいくつも襲ってくる。
飛べ
そこで起きるのは小爆発
躱せ、
吹き出したのは水
躱さなきゃ、
飛んできたのは岩
避けて!
そんな彼らの攻撃を、私は必死に避けることしか出来なかった。
身を翻して
宙まわり
壁を蹴っては
個性で弾く
こんなの、前はできなかったのに、
この血のせいで。
こんなの、私の力じゃないのに。
あっという間に血で汚れた自分が怖くなって、
私の弱気が頭を出した。
私はどうすれば、
みんなはどこだろう
なにそれ私、みんなを頼るつもり?
ダメだよだって、
まだ“信頼”もなにも、ないんだから。
視界が狭くなって、少しだけ目が霞んで。
「あっうぁっ!!」
少し気を抜いた隙に、私の身体はしゅるしゅると何かに絡み取られていた。
巻きついた何かに引き寄せられて、
私は岩陰へ連れ込まれる。
とっさにわき腹のターゲットを覆うと、
「安藤!すげぇなこれ!」
なんて気の抜けた声が耳に入った。