第36章 ステレオ
ぱちぱちと、2回ほど瞬きをした。
こんなにも、受験者が多いんだなって。
心は一歩、後ずさりしそうになる。
そんな弱気を吹き飛ばすように、私はぐっと眉に力を込めた。
受験者がすし詰めにされた大きな会場では、少しだけやつれたお兄さんが死にそうになりながら試験の説明している。
いきなり倒れちゃったりしないかな、とお兄さんの心配でも胸をどきどきさせながら話を聞いて。
「ずばりこの場にいる受験者1540人一斉に、勝ち抜けの演習を行ってもらいます。」
胸が一気にうるさくなった。
勝ち抜け、という言葉が
誰かを蹴落とすということが
リアルに、確実に、胸を突く。
「現代は、ヒーロー飽和社会と言われ、ステイン逮捕以降ヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくありません。」
ステインさん。
彼の話も少し上がって、きゅっと口を締める。
そっか、やっぱり
こりゃあ本当の本当に仮免試験だ。
なんて当たり前のこと考えて右目に触れた。
うん、軽い。
それで前を向くと、お兄さんがちょうどとんでもないことを告げた瞬間だった。
「条件達成者先着100名を通過とします。」
「!?」
へ、なんて
今なんて
5割って、言ってた……でしょ?
急に膝が笑い出して、がっくんと地面につきそうになった。
私の膝、もうだめだァあーっはっはって笑ってるんだと思う。
「まァ、社会でいろいろあったんで……運がアレだったと思って……」
社会でいろいろあった、かぁ。
その言葉に、
なんとなく、膝の爆笑も収まっていく。
みんな知らないかもしれないけどね
私にも、いろいろあったんだよ。
人生を変えるほど、大きなこと。
昔の私じゃないよって
私、強くなったんだって、
伝えたい。
それで
彼にも。
膝を摩る手を静かにおろし、前を見据える。
震えは止まらない。
汗も止まらない。
でもやるんだ。
やってやるんだ。
やるしか、ないんだ。