第35章 ZERO TO HERO
思ったよりもずっと混乱してたらしい。
やることがいっぱいいっぱいあって
毎日わけがわからないままころがるように過ぎちゃった。
それで、
あっという間に、試験当日で。
バスの中からぼうっと外を眺めてる。
どなどなどーなーどーなー
そんな音楽が頭の中でぐるぐると鳴り響く。
瞬きしてるうちに1日が終わってしまっていればどれだけいいか。
なんて考えながら、手の中の小さな箱を眺めた。
さっき、バスに乗る前。
緊張で胸を爆発させようとしていたら、あの溌剌とした大きな声が耳を劈いたんだ。
「あんどーーうさん!」
「ひょぐっ!?」
ばっと後ろを振り向けばあの、ピンクの髪の女の子。
前よりもずっとずっと真っ黒でそれでも目だけはキラキラで、
眩しくって瞬きを何度かした。
「発目さん!」
「完成しましたよ!頼まれていたもの!」
「ほんとに!?」
「これです!」
そうやって勢いよく手渡されたのは、小さな箱で。
「これ…」
「コンタクトレンズタイプにしてみました!どうでしょう!」
「こんた…くと…」
手で眼帯に触れて、それから箱に触れてみる。
思ったより軽かったそれを抱えて、私は発明さんに頭を下げた。
「ごめんなさい。ありがとう…。すごくすごく嬉しい」
「いえいえ!私は好きでやってるので!使用した感想聞かせてください!では!」
そう言うと彼女は、なんの後腐れもなくタタっと走って行ってしまった。
呆気に取られた私は、そのまんまバスに乗った。
林間合宿の時みたいに盛り上がった車内ではなくて、少しだけ硬い空気が漂っている。
そんな空気がまた私を緊張させているわけで。
ぎゅっと目を瞑って、箱もぎゅっと抱え込んで。
大丈夫、大丈夫と唱えているあいだに、ほらもう。
「降りろ。到着だ。」
そんな無機質な声が広がっていく。