第35章 ZERO TO HERO
「安藤さんか。いろいろ大変だったもんなぁ。」
「安藤さん!どなたでしょう!」
「お前テレビ見てねぇのか。」
まぁまぁ、と招き入れられ、私はふたりの会話を聞いている。
発目、明さん。
出久くんの言っていた、変わった人、って多分彼女のことだ。
とっても変わっているけれど、彼女に言えば何とかしてくれるんじゃないか、なんて気持ちもどこかから芽生えてくる。
「あの、ですね。私、この眼帯の代わりになるものを探してて。」
「ほうほう!」
「私の、この目はすごく危険だからつけてるんですけど…なんだか動く時気にしちゃうなって…それで…えっと、そういう感じのもの、ないですか?」
右手で眼帯をもたもたと触りながら、先生と発目さん、二人を見つめる。
「なぁるほど!そんなこと!お茶の子さいさいのさいじゃあないですか!」
「お、お茶の子なんですか?」
「私、発目明にお任せ下さい!」
大きな声をあげたかと思うと、発目さんはぐるんと振り返り、だっと駆け出した。
「えぇっ!」
もう彼女には私は見えていないようで、一心不乱に机に向かっている。
その気迫に私は、すごい…なんて小学生みたいな言葉しか出すことができなかった。
「凄いだろ。」
隣に立っていた先生から、ぽろりとひとつこぼれる。
それ以上は言わなかったけど、そのこぼれた一言だけから、
先生の、発目さんへの“信頼”が伝わってきた。
その一言が、なんだか、いいなぁって、思った。
「じゃあ、完成するまでにかかると思うから訓練に戻りな。完成したらまた連絡するよ。」
「あっはい。ありがとうございます!」
そう先生に促され、私は“TDL”へと歩いていく。
『信頼』
という言葉を反復しながら。