第35章 ZERO TO HERO
「ほへ……」
共同スペースのソファで、ぼーっと考え事をする。
お風呂上がりの髪からは、ここの寮の良いシャンプーの匂いがする。
みんなは個性、生まれた時から使ってて
私はまだまだ…使ったの2回目くらい…
よっぽど頑張らないといけないんだなぁ…
「必殺技かぁ…」
「ひよこちゃん?」
「うぇっ、うゎあっ!?」
ぼけーっとした意識の中に彼の声が響いて、私の意識は一気に浮上する。
「ひよこちゃんっ!驚かせちゃった?ごめん!」
「あっ、いや、ぜんっぜん!!」
ぐるんっと振り返ると、まだしっとりとした髪を揺らす、彼が。
「私こそごめん、出久くん。」
ぱちぱちと何度か瞬きをすると、さっきまでのもやもやはパッと消えちゃって、頬がどんどん熱くなっていく。
「まだ部屋には帰らないの?」
「あっ、えっとね…その…」
顔が最高まで赤くなってしまって目をぎゅーっと瞑る。
『分かってんだろうな、いい加減なことしたら_』
そんな声を思い出して、きっと彼を見据える。
そして、震える声で、こう言った。
「い、出久くんっ…ヲ、まって…たノ!!」
ところどころ声が裏返ったのは、許して欲しい。
顔は火照って思考もうまく回らない。
出久くんはどんな顔をしているんだろう。
恐る恐る目を開いて彼を盗み見ると、出久くんはぽかんとした顔でこちらを見ていた。
「なんで?」
ナンデ!!
か、考えていなかった!!
『困ったら上目遣いだ。』
「え、えっと、そ、それはね、一緒に…居たかった…カラ?」
彼の顔を見上げて、こてんと首を傾げる。
そんな必死の“アピール”にも、目の前の出久くんは、いっそう不思議そう顔をして
私は赤い顔をがくんと落とした。