第35章 ZERO TO HERO
手を口元に寄せて、親指を八重歯でガリッと噛みちぎる。
じわっと溢れ出たそれを見て、私は手を伸ばした。
無意識下で覚えていたこの個性の使い方。
身体は勝手に動くけど、まだ頭は覚えていない。
この個性は私のじゃない、まだ他の誰かの個性なんだ。
“血”が、そうさせている…みたい。
手を伸ばした先で、その“血”は糸のように垂れてそれから剣へと形を変え、グサリと地面に刺さる。
大ぶりの、重たい剣。
「うんっ…!」
それを持ち上げて、ふらふらと構える。
構えてみればなんだか安定して、私はほっと相手を見据える。
目の前には、分身したエクトプラズム先生が。
私が構えるまで待っていてくれたみたい。優しい。
「じゃあ、行きます先生!」
「アァ。取リ敢エズ動キヲ見セテミロ。」
構えたままたたたっと走って剣を振り上げる。
先生は息もさせないくらい速い
……はずなのに
なぜだかスローモーションのように見えてしまう。
多分、2個目の個性のせいだ。
ガキンッ、ガキン
金属同士がぶつかり合う音が、耳に響く。
途中で液体に戻し、振る距離を少し減らしたり、
相手の動きを見て、避けたり。
私の動きではない気がした。
私が、なにかに動かされている気がした。
「安藤。」
「へ…?……はい!」
刃があたって消えてしまったエクトプラズム先生を眺めていると、後ろから、また先生の声が響いた。
「動キハモウ良イ。必殺技ノ話ヲシヨウ。」
「必殺技…ですか。」
ぱちりと瞬きをする。
みんなの声が、急に遠く感じた。
そして、あてどない茫漠とした大海原が広がっていることに気がついたんだ。