第33章 A world beginning with you
Side 切島鋭児郎
安藤の言葉は、やっぱり嬉しかった。
目の前の彼女は汗を飛ばして、それでも一生懸命、言葉を紡いでくれている。
前と違うところは、途中でこらえきれなくなって目を瞑ったりしているけど、それでも俺の目をちゃんと見つめているところ。
「私、あの怖い人に…い……いろいろされ、て…。真っ暗闇に落っこちて、どんどん落ちて…もう、このまま真っ暗の中に溶けちゃうのかなって思った…。そんなとき…声が聞こえて…。その声を、その光を辿ったら、鋭児郎くんがいて…」
安藤は、真っ赤な顔を震わせて、桜色の唇をきゅっと閉じる。
それから決意したようにもう一度、口を開いて
「ありがとう!ありがとう、鋭児郎くん!」
安藤はまた太陽みたいににっと笑う。
俺の大好きなその笑顔が、いまちゃんと、ここにあるんだ。
改めてそれを実感して嬉しくなって。
俺は思わず手を伸ばす。
「安藤」
「へ、うあっ!」
薄い肩を、華奢な体を力いっぱい抱きしめた。
「えっ!ええい…じっ!ろ…!くっ!!」
「安藤!!ほんとに心配したんだからな!!もう目が覚めないかと思った!もう二度と会えないかと思ったんだぞ!!」
「ごめんね、心配かけてごめんなさい!でもちょいと…くるしい!」
腕の中で安藤は、もぞもぞと動く。
その動きも、愛おしくて。
「わりぃ。」
少しだけ力を緩めたけど、離すつもりはなかった。
安藤は顔をもぞもぞと動かして、俺の方に真っ赤な顔を向ける。
「大丈夫。私、ここにいるよ。」
俺の服を握りしめて、安藤は言った。
それから赤い顔のまま、
「それから…その……恥ずかしいっていうか…」
むにゃむにゃと言う。
ハッと顔を上げるとみんな、生暖かい目でこちらを見ていた。
緑谷も、見ていて。
「あっ、わっ、悪い!!」
バッと手を離した。
とてとて、と後ずさる安藤はこちらを見てちょっとだけ下を向いたあと、ぷくっと頬を膨らまして怒った顔をした。
初めて見る顔に、俺はちょっとだけ嬉しくなった。
それでも少し居た堪れないので、俺は声をあげた。
「あっ、そ、そうだ!安藤部屋!部屋王!!」
とっておきを、思い出して。