第33章 A world beginning with you
砂藤くんは、ケーキを焼いてくれた。
百ちゃんは、美味しい紅茶を入れてくれた。
すっごくすっごく嬉しくて、楽しくて、どうやったらそれをみんなに伝えられるか、ずっとずっと考えて。
どれだけ考えても、この大きな大きな気持ちを伝える方法は分からなかった。
だからこそ、もっとたくさん、みんなと一緒に居たいなと思った。
「砂藤くんは、料理上手なんだね。すっごい美味しいよ。ありがとう」
「おぅ!安藤は美味しそうに食べてれるからなんかこっちも嬉しくなるぜ。」
「ほんと?でも、ほんとにおいしいんだもん。美味しい顔になっちゃうよ。」
「なんだよそれ。すげー嬉しいじゃん!」
口いっぱいにケーキを含んでもくもくと食べる。
しっとりと焼き上げられたスポンジケーキと口当たりなめらかなホイップクリーム、それに真っ赤に熟れたイチゴの甘酸っぱさ。
おいしい。
おいしい!
そんなふうにケーキに夢中になっていると、キラキラと赤い苺で、いきなり“彼”のことを連想した。
私がここに戻ってこれたのは、“彼”のお陰だと。
そして、感謝を伝えていないことに、何も伝えていないことに気がついた。
一番伝えないといけないことなのに。
範太くんと電気くんと話している彼の後姿に声をかける。
「え…鋭児郎くん!」
「ん?」
なんでかわからないけど少しだけ緊張して、声が震えた。
くるんと振り返る赤い髪。
どこまでも澄んで真っ直ぐな瞳が私をとらえて、私はサッと目を下にそらす。
もっと緊張してしまって、私はしどろもどろで感謝を伝えた。
「あの…。私、鋭児郎くんに、まだ、なにも…ありがとうって…いって、なくてさ…。ありがとうって、言いたくてさ…その……」
緊張しきった私は下を向いてむにゃむにゃと。
そんなのダメだと上を向いて、彼の目を見てはっきりと。
「あのっ!私のこと、連れ戻してくれて、ありがとう!私、今すっごく、幸せなの!」
真っ直ぐ見つめたその瞳は、やっぱり綺麗で眩しくて。
その瞳の隣に居られることが、誇らしかった。