第33章 A world beginning with you
足が、信じられないほど重たい。
一歩、また一歩と真っ暗で静かな夜の中を進んでいく。
もう、なんでも行けちゃうって、思ったんだけどな。
もう、怖いものなんてないって、思ったんだけどな。
膝がガクガク震えてるのが分かる。
心臓の音なんかこっちまで聞こえてきちゃいそうだ。
みんなは、なんて言うだろう。
そんなことを考えていたら、手は汗でぐっちょぐちょだ。
ちょっとだけ想像してみよう。
『た、ただいまぁ…なんちゃって…。』
『あ、安藤…さん。え……帰ってきたんだ。』
うっ…。
『私安藤ひよこ!死の淵から生還いたしました!』
『あ…へぇ…。よかったね…。じゃあ。』
うぐっ…。
『久しぶりー!みんな!元気ー?』
『え…帰ってきたんだ…。元気です…けど…。…ごめんなさい。安藤さん。帰ってこないと思って席撤去しちゃって…。部屋も私たちで使わせてもらってるけど…どこで寝る……?』
「あぁぁぁ…!!」
その逞しすぎる想像力のせいで私の足はどさりと崩れ落ちる。
挫折した人の見本みたいな格好になった。
最後のやつなんてリアリティがありすぎる。
何処で寝る…って!
ほんとだ!私今夜どこで寝るんだろう!
席とか!撤去されてそう!
「うぅ………ふぬっ!…よし…いくぞ…!」
ひとしきり絶望して、私はムクリと立ち上がる。
せめて…せめて、屋根のある場所に寝させてもらおう。
そんな最低限の願いを胸に、よろける足にムチを打った。
雄英の大きな門をくぐって歩けば、真新しい建物が目に飛び込んでくる。
1-A
そんなふうにでかでかと書かれていれば、違えるはずもなく。
膨れ上がっていく不安を胸に、ゆっくりゆっくり歩いていく。
明かりは全部消えていて、みんな寝ちゃってるんだ、と思うと、寂しいようなほっとしたような気になった。
みんな寝てるんだ…。よかった…。きっとあれだ。疲れてるんだよね。うん、そうだよね。そうそう、そうなんだよ。あー、そうそう。やっぱそうそう。
そうやって意味の無い言葉で頭をうめて、下を向いて舗装された綺麗な道を歩いていく。
もうすぐかな、と顔をあげてみる。
するとそこには、階段に腰掛けて下を向く、モサモサ頭がみえた。