第32章 夢を諦める方法
「ひよこはお母さんの……“ヒーロー”…」
手に持ったその便箋に、ボタボタとシミができた。
真っ白だと思っていたその便箋は、すこしだけ黄ばんでいた。
便箋がくしゃりと曲がって、もっとシミができる。
「うっ…うぅ……」
脚をぎゅうっと抱きしめる。
鼻水も涙も止まらなくて。
「ううぁぁ…」
不吉な塊だと思っていたそれは
真っ白な、恐ろしい塊に思えていたそれは
出久くんに背を押されて読んだそれは
地球が落っこちてきて、世界がひっくり返ってやっと読めたそれは
お母さんの
優しくて、暖かい
大切な、大切な
ただの、愛の塊だった。
こんなにも優しい文字を、私は初めて見た気がして。
出久くんの前だというのに、涙を垂れ流した。
気にしてなんて、いられなかった。
嬉しくて、悲しくて、こいしくて。
涙が出る。
会いたくて、ギュッて抱きしめて欲しくて。
涙が出る。
涙を流しながら、私は夕日を見上げた。
オレンジ色の滲んだ夕日が。
全てを優しく撫でていく夕日が。
奇跡のように綺麗な夕日が。
どうしてだか今は、朝日のように思えた。
眉に力を込めて、私は笑おうとした。
濡れた頬のまま、笑った。
朝焼けのような黄昏時。
私は大きく息を吸って、息を整えて。
それから、大きな決断をした。